百合文库
首页 > 网文

山月記(6)

2023-07-17 来源:百合文库
その人間の心で、虎としての己(おのれ)の残(ざん)虐(ぎゃく)な行(おこない)のあとを見(み)、己(おのれ)の運(うん)命(めい)をふりかえる時が、最も情(なさけ)なく、恐(おそろ)しく、憤(いきどお)ろしい。しかし、その、人間にかえる数時間も、日を経(へ)るに従って次(し)第(だい)に短くなって行く。今までは、どうして虎などになったかと怪(あや)しんでいたのに、この間(あいだ)ひょいと気が付いて見たら、己はどうして以前、人間だったのかと考えていた。これは恐しいことだ。今少し経(た)てば、己の中の人間の心は、獣(けもの)としての習慣の中にすっかり埋(うも)れて消(き)えて了(しま)うだろう。ちょうど、古い宮(きゅう)殿(でん)の礎(いしずえ)が次第に土(ど)砂(しゃ)に埋(まい)没(ぼつ)するように。

山月記


そうすれば、しまいに己は自分の過去を忘れ果(は)て、一匹の虎として狂(くる)い廻(まわ)り、今日のように途で君と出会っても故人(とも)と認(みと)めることなく、君を裂(さ)き喰(くろ)うて何の悔(くい)も感じないだろう。一体、獣でも人間でも、もとは何か他(ほか)のものだったんだろう。初めはそれを憶えているが、次第に忘れて了(しま)い、初めから今の形(かたち)のものだったと思い込んでいるのではないか?いや、そんな事はどうでもいい。己の中の人間の心がすっかり消えて了えば、恐らく、その方が、已はしあわせになれるだろう。だのに、己の中の人間は、その事を、この上なく恐しく感じているのだ。ああ、全く、どんなに、恐しく、哀(かな)しく、切(せつ)なく思っているだろう!已が人間だった記憶のなくなることを。この気持は誰にも分らない。
誰にも分らない。已と同じ身の上に成(な)った者でなければ。ところで、そうだ。已がすっかり人間でなくなって了う前に、一つ頼(たの)んで置(お)きたいことがある。

山月記


猜你喜欢