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山月記(4)

2023-07-17 来源:百合文库
叢の中からは、暫(しばら)く返(へん)辞(じ)が無かった。しのび泣(な)きかと思われる微(かす)かな声が時(とき)々(どき)洩(も)れるばかりである。ややあって、低(ひく)い声が答えた。「如何(いか)にも自(じ)分(ぶん)は隴西の李徴である」と。
袁傪は恐(きょう)怖(ふ)を忘(わす)れ、馬(うま)から下(お)りて叢に近(ちか)づき、懐(なつ)かしげに久(きゅう)闊(かつ)を叙(じょ)した。そして、何故(なぜ)叢から出(で)て来(こ)ないのかと問(と)うた。李徴の声が答(こた)えて言(い)う。自分は今や異(い)類(るい)の身(み)となっている。どうして、おめおめと故人(とも)の前(まえ)にあさましい姿(すがた)をさらせようか。かつ又(また)、自分が姿を現(あらわ)せば、必ず君(きみ)に畏(い)怖(ふ)嫌(けん)厭(えん)の情(じょう)を起(おこ)させあるに決(きま)っているからだ。しかし、今、図(はか)らずも故人(とも)に遇(あ)うことを得(え)て、愧(き)赧(たん)の念(ねん)をも忘(わす)れる程(ほど)に懐(なつ)かしい。どうか、ほんの暫(しばら)くでいいから、我が醜(しゅう)悪(あく)な今の外(がい)形(けい)を厭(いと)わず、會て君の友李徴であったこの自分と話(はなし)を交(かわ)してくれないだろうか。

山月記


後(あと)で考(かんが)えれば不(ふ)思(し)議(ぎ)だったが、その時、袁傪は、この超(ちょう)自(し)然(ぜん)の怪(かい)異(い)を、実(じつ)に素(す)直(なお)に受(うけ)容(い)れて、少しも怪(あや)もうとしなかった。彼は部(ぶ)下(か)に命(めい)じて行(ぎょう)列(れつ)の進(しん)行(こう)を停(と)め、自分は叢の傍(かたわら)に立って、見(み)えざる声と対(たい)談(だん)した。都(みやこ)の噂(うわさ)、旧(きゅう)友(ゆう)の消(しょう)息(そく)、袁傪が現(げん)在(ざい)の地(ち)位(い)、それに対(たい)する李徴の祝(しゅく)辞(じ)。青(せい)年(ねん)時(じ)代(だい)に親しかった者(もの)同(どう)志(し)の、あの隔(へだ)てのない語(ご)調(ちょう)で、それ等(ら)が語(かた)られた後(のち)、袁傪は、李徴がどうして今の身(み)となるに至(いた)ったかを訊(たず)ねた。
草(そう)中(ちゅう)の声は次のように語った。

山月記


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