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芥川龙之介:桃太郎(中日双语)(4)

2023-04-27日语芥川龙之介日语文学 来源:百合文库

桃太郎はこういう罪のない鬼に建国以来の恐ろしさを与えた。鬼は金棒(かなぼう)を忘れたなり、「人間が来たぞ」と叫びながら、亭々(ていてい)と聳(そび)えた椰子(やし)の間を右往左往(うおうざおう)に逃げ惑(まど)った。
「進め! 進め! 鬼という鬼は見つけ次第、一匹も残らず殺してしまえ!」
桃太郎は桃の旗(はた)を片手に、日の丸の扇を打ち振り打ち振り、犬猿雉(いぬさるきじ)の三匹に号令した。犬猿雉の三匹は仲の好(い)い家来(けらい)ではなかったかも知れない。が、饑(う)えた動物ほど、忠勇無双(むそう)の兵卒の資格を具えているものはないはずである。彼等は皆あらしのように、逃げまわる鬼を追いまわした。犬はただ一噛(ひとか)みに鬼の若者を噛み殺した。雉も鋭い嘴(くちばし)に鬼の子供を突き殺した。猿も――猿は我々人間と親類同志の間がらだけに、鬼の娘を絞殺(しめころ)す前に、必ず凌辱(りょうじょく)を恣(ほしいまま)にした。……
あらゆる罪悪の行われた後(のち)、とうとう鬼の酋長(しゅうちょう)は、命をとりとめた数人の鬼と、桃太郎の前に降参(こうさん)した。桃太郎の得意は思うべしである。鬼が島はもう昨日(きのう)のように、極楽鳥(ごくらくちょう)の囀(さえず)る楽土ではない。椰子(やし)の林は至るところに鬼の死骸(しがい)を撒(ま)き散らしている。桃太郎はやはり旗を片手に、三匹の家来(けらい)を従えたまま、平蜘蛛(ひらぐも)のようになった鬼の酋長へ厳(おごそ)かにこういい渡した。
「では格別の憐愍(れんびん)により、貴様(きさま)たちの命は赦(ゆる)してやる。その代りに鬼が島の宝物(たからもの)は一つも残らず献上(けんじょう)するのだぞ。」
「はい、献上致します。」
「なおそのほかに貴様の子供を人質(ひとじち)のためにさし出すのだぞ。」
「それも承知致しました。」
鬼の酋長はもう一度額(ひたい)を土へすりつけた後、恐る恐る桃太郎へ質問した。
「わたくしどもはあなた様に何か無礼(ぶれい)でも致したため、御征伐(ごせいばつ)を受けたことと存じて居ります。しかし実はわたくしを始め、鬼が島の鬼はあなた様にどういう無礼を致したのやら、とんと合点(がてん)が参りませぬ。ついてはその無礼の次第をお明(あか)し下さる訣(わけ)には参りますまいか?」
桃太郎は悠然(ゆうぜん)と頷(うなず)いた。
「日本一(にっぽんいち)[#ルビの「にっぽんいち」は底本では「にっぼんいち」]の桃太郎は犬猿雉の三匹の忠義者を召し抱(かか)えた故、鬼が島へ征伐に来たのだ。」
「ではそのお三(さん)かたをお召し抱えなすったのはどういう訣(わけ)でございますか?」
「それはもとより鬼が島を征伐したいと志した故、黍団子(きびだんご)をやっても召し抱えたのだ。――どうだ? これでもまだわからないといえば、貴様たちも皆殺してしまうぞ。」
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