Perfect Blue外传短篇小说《into the blue》(14)
最初はわざとらしく怒ってみせていた表情はやがて不安の色へと変わっていく。私の態度はどうやら彼女にとって深刻な問題のようであり、そこでようやく私も二人の間に決定的な認識の齟齬があるらしいと感じ取った。
「美羽、今日一緒に出かけることになった経緯を覚えている?」
「……記憶にない」
「昨日の二人で図書館に立ち寄って試験勉強したことは?」
「それも記憶にない」
「——じゃあ」
言い淀んだ彼女の語尾が少し掠れたように聴こえたのは気のせいだっただろうか。きっとそうだろう。私には彼女が、取り乱したり何かに怯えたりする様子が想像もできないのだ。
「二人が付き合うことになった、日のことは?」
「——知らない」
だから、私の言葉に痛む顔を見せた彼女のことをどこか他人事のようにみていた。
(3)
——どうやら私の記憶には空白があり、一続きではないらしい。
突然喫茶店を出ようと言い出した彼女は、私をいつだったか初めて一緒に空を飛んだ展望公園に連れてきた。あの時とは違って不思議と身体は軽く、公園まで登るのにもさほどの苦労はなかった。その事実に私は、彼女から齎されたもう一つの驚くべき証言を結びつける他なかった。
「やっぱり美羽、どこか具合が悪いんだわ。記憶喪失かもしれない。ううん、記憶喪失とも違う」
「記憶喪失じゃないってどういうこと?」