Perfect Blue外传短篇小说《into the blue》(16)
「あのままだったら私、自分自身でも自分が誰なのか、どこからが作られた私でどこまでが自分自身なのか、わからなくなっていたと思う。自分は作り物……ロボットと変わらないんだって思っていたかもしれない。だから美羽に出会えて、救われた」
——私が朱音を救った。
「ここでね、私から告白したのよ。最初は少し驚いていたけれど、すぐに美羽は頷いてくれた。それを見ながら私は、照れた美羽も可愛いなあとか思っていてね」
彼女の声が、遠ざかっていく。
私はようやくこの"世界"が何であるかを理解し始めていた。断片的なシーンと、無駄のない会話。デザインドということになっている私。朱音と恋人だと彼女にとって特別な存在であるということ。それはすべて私には手が届かなかったもの。手に入らないと知ったもの。
「好きよ、美羽。あなたのことが好き」
私の知らない顔で彼女が微笑む。少し朱のさした気恥ずかしさを乗り越えて開き直ったような、そんな笑みを向けられている。
それを私は冷めた目で眺めていた。これが私の希み。私はこんなものが欲しかった?
ふと、彼女の笑顔が透けたように空に消えてしまいそうになる。そして私はその表情を前にも見たことがあると思い至った。そう、この世界に見たことのないものは現れない。ホットココアを選ぶことができなかったように。その表情は、今と同じく好きな人を想う時に見せたものだった。私はその横顔を見ていたのだ。
「私は、こんなものが欲しかったわけじゃない」
デザインドになりたかったわけじゃない。朱音に好きになってほしいなんて思ってない。彼女が誰か違う人を好きになっても別にいい。アキラの言うとおり私は子供じみていて負けず嫌いだから、迫る絶望に負けたくなかっただけだ。でも。