Perfect Blue外传短篇小说《into the blue》(12)
(2)
「はね美羽、聞いてる?」
耳触りの良いその声で名前を呼ばれていることに気づき、ふと我に返ると長い髪をすくい上げながらこちらを覗き込むクラスメイトの顔が目の前にあった。
「っ、え、近っ」
「近っ、じゃないわ。やっぱり聞いてなかったんでしょう」
「ご、ごめん……なんの話だった?」
なぜ彼女と私はこんな場所にいるのだろう。真っ白な空間に小洒落た調度品、目の前のコーヒーカップは触れればまだ温かく、香ばしい香りを漂わせている。一度だけ来たことがある、学校近くの喫茶店だ。
——おかしいな。私はアキラといたような気がしたのだけども。
「次のデートはどこへ行きましょうか、ってお話してたのよ。美羽はどこか行きたいところ、ある?」
今何と言ったのだろう、このひとは。
いつもそうやって人の心を弄ぶ。清楚な優等生に見せかけてとてもずるい。だから私が勘違いしてしまいそうになるのだ。
私は彼女の、特別だったと。
「別に、ないけど」
「美羽……私と出かけるの、楽しくないの?」
長い睫毛を伏せて、まるで本当に悲しいかのような素振り。
——じゃあ貴方はどうなんだ。
「朱音は私と出かけるのが楽しいの?」
「当たり前じゃない、恋人と一緒なんだもの」
——恋人。
「私と朱音が……恋人って、また変な冗談を」