第一章 島を出た少年(9)
「ちょっとお、大丈夫!?」と女の一人が言い、
「いいからさあ」と金髪ピアスはその子の肩を抱く。「さっきの話の続きだけどね、絶対ウチの店のほうが稼げるからさ。ちょっと中で説明させてくれる?」
そう言って、金髪ピアスは僕をチラリとも見ずに、女子二人を押し込めるようにして建物の奥に消えていく。
「なんだよこりゃ、邪魔くせえな!」
あからさまな舌打ちで、カップルが空き缶を蹴りながら道路に座り込んだ僕の横を通り過ぎる。
「すみません……!」
僕は慌ててゴミ箱を元の場所に戻し、濡 [ぬ] れた地面に四つん這 [ば] いになってそこらじゅうに散らばった空き缶を必死に拾う。ゴミは缶だけではなく、弁当の空き箱や生ゴミも混じっている。通行人たちは迷惑そうな態度を隠さない。僕は一刻も早くこの場から去りたくて、でもそのためには早く片付けなければいけなくて、濡れてぐにゃりとするフライドチキンやおにぎりの食べ残しも素手で必死に摑 [つか] む。勝手に涙が滲 [にじ] み、雨と混じって頰を伝う。
ずしり、という奇妙な重さの紙袋が、そのゴミの中にあった。それはハードカバーの単行本くらいの大きさで、ガムテープでぐるぐる巻きにされていた。
ガチャッ。
布製のガムテープを剥 [は] がしていくと、濡れた紙袋が破けて中身が床に落ちた。重い金属音が店内に響き、僕は慌てて足元に手を伸ばした。
「えっ!?」
それは銃のように見えた。僕は慌ててそれを掴み、リュックに押し込んだ。ひんやりとした不吉な感触が手に残る。ぐるりと周囲を見渡す。
そこは私鉄の駅とパチンコ屋に挟まれた、深夜のマクドナルドだ。僕が泊まっていた漫画喫茶からも近く、既に何度も来たことのある馴染 [なじ] みの場所だった。終電を過ぎた店内は人もまばらで、ほとんどの人は無言でスマホに目を落としており、話をしているのは女性の二人連れが一組だけだ。「私だけがどんどん好きになってっちゃってさ……あの人って基本既読スルーだしさ……」そんな女子の会話が、やけに深刻なトーンでひそひそと聞こえてくる。誰もこちらは見ていない。
「いいからさあ」と金髪ピアスはその子の肩を抱く。「さっきの話の続きだけどね、絶対ウチの店のほうが稼げるからさ。ちょっと中で説明させてくれる?」
そう言って、金髪ピアスは僕をチラリとも見ずに、女子二人を押し込めるようにして建物の奥に消えていく。
「なんだよこりゃ、邪魔くせえな!」
あからさまな舌打ちで、カップルが空き缶を蹴りながら道路に座り込んだ僕の横を通り過ぎる。
「すみません……!」
僕は慌ててゴミ箱を元の場所に戻し、濡 [ぬ] れた地面に四つん這 [ば] いになってそこらじゅうに散らばった空き缶を必死に拾う。ゴミは缶だけではなく、弁当の空き箱や生ゴミも混じっている。通行人たちは迷惑そうな態度を隠さない。僕は一刻も早くこの場から去りたくて、でもそのためには早く片付けなければいけなくて、濡れてぐにゃりとするフライドチキンやおにぎりの食べ残しも素手で必死に摑 [つか] む。勝手に涙が滲 [にじ] み、雨と混じって頰を伝う。
ずしり、という奇妙な重さの紙袋が、そのゴミの中にあった。それはハードカバーの単行本くらいの大きさで、ガムテープでぐるぐる巻きにされていた。
ガチャッ。
布製のガムテープを剥 [は] がしていくと、濡れた紙袋が破けて中身が床に落ちた。重い金属音が店内に響き、僕は慌てて足元に手を伸ばした。
「えっ!?」
それは銃のように見えた。僕は慌ててそれを掴み、リュックに押し込んだ。ひんやりとした不吉な感触が手に残る。ぐるりと周囲を見渡す。
そこは私鉄の駅とパチンコ屋に挟まれた、深夜のマクドナルドだ。僕が泊まっていた漫画喫茶からも近く、既に何度も来たことのある馴染 [なじ] みの場所だった。終電を過ぎた店内は人もまばらで、ほとんどの人は無言でスマホに目を落としており、話をしているのは女性の二人連れが一組だけだ。「私だけがどんどん好きになってっちゃってさ……あの人って基本既読スルーだしさ……」そんな女子の会話が、やけに深刻なトーンでひそひそと聞こえてくる。誰もこちらは見ていない。