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第一章 島を出た少年(8)

第一章   島を出た少年


「……東京って怖えな」
食事に夢中の仔猫からは返事はない。
「でもさ、帰りたくないんだ……絶対」
そう言って、僕は再び両膝 [りようひざ] に顔をうずめた。仔猫が物を噛む小さな音と、アスファルトを叩く雨の音と、遠い救急車のサイレンとが混じりあって耳に届く。歩き続けた足の痛みが、ようやく甘く溶けていく。僕はまた、薄い眠りに落ちていった。
――きゃっ、誰かいる! えマジ、うわほんとだ! やだ、なあにこの子、寝てんじゃない?
……夢? いや違う、誰かが目の前に――
「君さあ!」
太い声が頭上からって、僕は弾 [はじ] かれたように目を覚ました。金髪ピアスのスーツ姿の男が、冷たい目で僕を見下ろしている。暗かったエントランスにはいつの間にか煌々 [こうこう] と灯りが点 [つ] いていて、肩と背を大きく出した服装の女の子が二人、男の横に立っている。仔猫はいなくなっている。
「うちになんか用?」
「す、すみません!」
僕は慌てて立ち上がる。頭を下げて男の脇を通り過ぎようとしたところで、ぐらりとバランスを崩した。男が爪先 [つまさき] で僕の足首を蹴 [け] ったのだ。とっさに手をかけた自販機のゴミ箱ごと、僕は雨のアスファルトに倒れ込んだ。ゴミ箱の蓋 [ふた] が外れ、空き缶が派手な音を立てて道路を転がっていく。

第一章   島を出た少年


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