第一章 島を出た少年(11)
――いつかあの光の中に行こう。その時僕は、そう決めたのだ。
どこからかかすかに風が吹き、ふわり、と髮を揺らした。
クーラーの風じゃない。ずっと遠くの空から草の匂いを運んできたような、これは本物の風だ。でもこんな場所で――僕はテーブルから顏を上げた。
目の前に、ビックマックの箱が置かれていた。
僕は驚いて振り返った。
少女が立っていた。マクドナルドの制服姿だ。濃いブルーのシャツに黒いエプロン、お下げの小さな頭にグレイのキャスケット帽。同い年くらいだろうか――黒目がちの大きな瞳 [ひとみ] が、なんだか怒ったように僕を見下ろしている。
「あの、これ……」頼んでませんけど、という意味で、僕は言う。
「あげる、内緒ね」小さな花の香りみたいにかすかな声で、そう言った。
「え? でもなんで……」
「君、三日連続でそれが夕食じゃん」
少女は僕のポタージュを見てから責めるようにそう言って、小走りで去って行く。
「え、ちょっと……」なにかを言おうとした僕の言葉に優しく蓋をするみたいに、彼女がいるりと振り向いた。きゅっと結ばれた口元がふいに緩み、ふふっと、少女は短く笑った。そのとたん、雲間から陽が射したみたいに景色に色がついた――ような気が、僕はした。少女はなにも言わず再び背を向けて、素早く階段を駆け下りていってしまった。
どこからかかすかに風が吹き、ふわり、と髮を揺らした。
クーラーの風じゃない。ずっと遠くの空から草の匂いを運んできたような、これは本物の風だ。でもこんな場所で――僕はテーブルから顏を上げた。
目の前に、ビックマックの箱が置かれていた。
僕は驚いて振り返った。
少女が立っていた。マクドナルドの制服姿だ。濃いブルーのシャツに黒いエプロン、お下げの小さな頭にグレイのキャスケット帽。同い年くらいだろうか――黒目がちの大きな瞳 [ひとみ] が、なんだか怒ったように僕を見下ろしている。
「あの、これ……」頼んでませんけど、という意味で、僕は言う。
「あげる、内緒ね」小さな花の香りみたいにかすかな声で、そう言った。
「え? でもなんで……」
「君、三日連続でそれが夕食じゃん」
少女は僕のポタージュを見てから責めるようにそう言って、小走りで去って行く。
「え、ちょっと……」なにかを言おうとした僕の言葉に優しく蓋をするみたいに、彼女がいるりと振り向いた。きゅっと結ばれた口元がふいに緩み、ふふっと、少女は短く笑った。そのとたん、雲間から陽が射したみたいに景色に色がついた――ような気が、僕はした。少女はなにも言わず再び背を向けて、素早く階段を駆け下りていってしまった。