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第一章 島を出た少年(4)

に、僕の目は吸い寄せられる。
「少年、マジでいらないの?」
「はい、お腹すいてませんから」
笑顏を作ってそう答えたとたん、ぐう、と腹が鳴った。思わず赤くなるが、「ああそう、なんか悪いねえご馳走 [ちそう] になっちゃって」と、男は気にする様子もなく肉を頰張る。
僕たちはフェリーのレストランに向かい合って座っていて、赤シャツ男だけが豪華な昼食を食べていて、僕は空腹を紛らわせようとレストランのBGMに意識を集中させていたところだったのだ。助けてもらったお礼として僕からご馳走させてくださいと申し出たのだけれど、それしても店で一番高いメニュー (千二百円) を選ばなくたっていいじゃないかと、さっきから僕は内心で思っている。大人ってこういう時に適切に遠慮するものじゃないのか。こっちは食費は一日マックス五百円までと決めてるのに初日から大赤字なんですけどそれは。……とかぐちぐちと思いつつも、僕は礼儀正しい対応を心がける。
「悪いだなんてそんなそんな! こちらこそ危ないところを助けていただいて――」

第一章   島を出た少年


「ほーんと」
い気味に赤シャツが言う。割り箸を僕に向ける。
「君、さっきは危なかったよねえ。……あ」
赤シャツは宙を睨 [にら] み、なにやら難しい顔をして考え込んでいる。そしてゆっくりと、満面の笑みになる。
「……俺さあ、誰かの命の恩人になったのって、そういえば初めて!」
「……はい」
嫌な予感が。
「そういえばここ、ビールもあったっけ?」
「……買ってきましょうか?」
なにもかも諦 [あきら] めて、僕は立ち上がる。
ニャーニャーニャーと、ウミネコが一斉に鳴いている。
手を伸ばせば届きそうな距離を気持ちよさそうに飛び回海大鳥の姿を、僕は夕食のカロリーメイトを大切にかじりながら、フェリーの通路デッキでぼんやりと眺めている。
「大人にたかられるなんて……」
生ビールは、なんと九百八十円だった。いい加減にしてくれよと僕は思う。ちょっと非現実的に高すぎるんですけど。家出初日にして、僕は四日分の食費を知らないオッサンのために遣ってしまったことになる。東京って怖 [こえ] え――と、しみじみと呟く。食べ終えたカロリーメイトの袋と入れ替わりにポケットからスマホを取り出し、あらためて「Yahoo!知恵袋」を開き、先ほどの質問を投稿した。なんとしてもバイトが必要なのだ。求むベストアンサー。

第一章   島を出た少年


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