第一章 島を出た少年(16)
……まじかー。苦いアイスコーヒーが、口の端から思わず垂れた。俺、愛人って初めて見た……
その時、ガチャリと唐突にドアの開く音がして、
「おっ、来てるなあ?」のんびりした声がした。振り返ると、赤シャツ――須賀さんがビニール袋をぶら下げてべったべったと歩いてくる。
「久しぶりだなあ少年。ん? ちょっと痩 [や] せたか?」
そう言って僕に向かって缶を放る。キャッチするとそれはビールで、どういう意図なのか僕は一瞬戸惑い、すると夏美さんが素早く僕の手からそれを取りあげた。
「ちょっとぉ、もしかしてパチンコ?」
そう言って夏美さんはプシュッとプルタブを開け、ほとんど同時に須賀さんも缶ビールを開け、二人は当たり前のことのようにごくごくと飲み始めた。なんだなんだ、この人たち昼から飲むのかよ。
「で、少年、仕事探してんだろお?」
テーブル脇の低イソファーにどっかりと腰を下ろした下ろした須賀さんが、やけに嬉 [うれ] しそうに僕を見る。ソファーの下に積まれた雑誌から一冊を引っぱりだし、僕に掲げる。
「我が社の目下の仕事はこれ。歴史と権威ある雑誌からの、執筆依頼!」
『ムー』とかれたその雑誌の表紙にはピラミッドと惑星とおどろおどろしい巨大な瞳 [ひとみ] が描かれている。促されるままに僕はページをめくってみる。「遂 [つい] にコンタクト成功! 二千六十二年からの未来人」「総力特集 ゲリラ豪雨は気象兵器だった!」「入手した国家機密 東京を守る大量の人柱」。ネットのジョーク記事を五十倍くらいの生真面目さで論考してみましたがなにか? 的な誌面が続く。
「次の仕事は都市伝説でさ」心なしか半笑いで須賀さんが言う。
「とにかく人に会って目擊談や体験談を聞いて、記事にすりゃいいんだ」
「はあ……」
「簡単だろ?」
「え……ええ? もしかして俺が!?」
「ジャンルはなんでもいいからさあ。神隠しとか予言とか闇の組織の人身売買とか?お前らガキはそういうの好きだろ?」
須賀さんはそう言ってスマホを取り出す。記事リストがずらりと並んでいる。「空から魚」「徳川 [とくがわ] 家と仮想通貨」「トランプはAI」「火星地表にCDが」「スマホでチャクラ活性」「裏世界へのエレベーター」等々……
その時、ガチャリと唐突にドアの開く音がして、
「おっ、来てるなあ?」のんびりした声がした。振り返ると、赤シャツ――須賀さんがビニール袋をぶら下げてべったべったと歩いてくる。
「久しぶりだなあ少年。ん? ちょっと痩 [や] せたか?」
そう言って僕に向かって缶を放る。キャッチするとそれはビールで、どういう意図なのか僕は一瞬戸惑い、すると夏美さんが素早く僕の手からそれを取りあげた。
「ちょっとぉ、もしかしてパチンコ?」
そう言って夏美さんはプシュッとプルタブを開け、ほとんど同時に須賀さんも缶ビールを開け、二人は当たり前のことのようにごくごくと飲み始めた。なんだなんだ、この人たち昼から飲むのかよ。
「で、少年、仕事探してんだろお?」
テーブル脇の低イソファーにどっかりと腰を下ろした下ろした須賀さんが、やけに嬉 [うれ] しそうに僕を見る。ソファーの下に積まれた雑誌から一冊を引っぱりだし、僕に掲げる。
「我が社の目下の仕事はこれ。歴史と権威ある雑誌からの、執筆依頼!」
『ムー』とかれたその雑誌の表紙にはピラミッドと惑星とおどろおどろしい巨大な瞳 [ひとみ] が描かれている。促されるままに僕はページをめくってみる。「遂 [つい] にコンタクト成功! 二千六十二年からの未来人」「総力特集 ゲリラ豪雨は気象兵器だった!」「入手した国家機密 東京を守る大量の人柱」。ネットのジョーク記事を五十倍くらいの生真面目さで論考してみましたがなにか? 的な誌面が続く。
「次の仕事は都市伝説でさ」心なしか半笑いで須賀さんが言う。
「とにかく人に会って目擊談や体験談を聞いて、記事にすりゃいいんだ」
「はあ……」
「簡単だろ?」
「え……ええ? もしかして俺が!?」
「ジャンルはなんでもいいからさあ。神隠しとか予言とか闇の組織の人身売買とか?お前らガキはそういうの好きだろ?」
須賀さんはそう言ってスマホを取り出す。記事リストがずらりと並んでいる。「空から魚」「徳川 [とくがわ] 家と仮想通貨」「トランプはAI」「火星地表にCDが」「スマホでチャクラ活性」「裏世界へのエレベーター」等々……