第一章 島を出た少年(14)
どうやらここが本当に会社らしい。でもどうしようかと僕は迷う。いかにも怪しげだし、お金の気配はゼロだ。なにがCEOだ。いやでも、他にあてもないのだ。覚悟を決めて傘を閉じ、僕は幅一メートルもない階段を降りめた。
カチン。
呼び䍅を押したはずなのに、なにも聞こえない。
僕はドアに耳を押しあて、まう一度呼び䍅のボタンを押してみる。無音だ。壊れているのだろうか。ノックをしてみる。無反応。試みにドアノブに手をかけてみたら、あっさりと、ドアが開いた。
「すみませーん、電話した森嶋 [もりしま] です!」
室内を覗 [のぞ] いてみる。数時間前に名刺の番号に電話した時には、持ってるから今からおいでと赤シャツ本人に言われたのだ。恐る恐る足を踏み入れる。入ってすぐに小さなバーカウンターがあり、しかしその周囲には本やら書類やら段ボール箱やらが雑然と積まれ、更には酒瓶やら店屋物のチラシやら洋服やらがあちこちに散らばっていて、店とも住居ともオフィスともつかない。部屋全体が「まあどーでもいいんだけど」 という空気に満ちている。
「須賀さん、いらっしゃいますか?」
すこし足を進めると、ビーズカーテンで区切られた部屋の奥の、ソファーが目に留まった。ブランケットにくるまったふくらみがある。
「須賀さん?」
まっ白な長い素足がソファーからはみでていた。近づくと、足の爪はぴかぴかの水色に塗られていて、ヒールの高いごついサンダルを履いている。顔を見ると、若い女性だった。長いさらさらした髪が顔を隠している。小さな寢息が聞こえる。
「スガ……さん……?」
なわけないよなとは分かっていつつも、僕はなぜか女性から視線をそらすことができない。デニム地のショートパンツがものすごく短い。髪の隙間から見える睫毛 [まつげ] が、そういうマンガのキャラみたいにものすごく長い。紫色のキャミソールの胸元が、呼吸でゆったりと上下に揺れている。僕はおもむろにしゃがみ込む。すると、胸元が目の高さに来る。
「……いやダメだろう人として」
我に返った僕が目をそらしたのと、
「あ、おはよ」
よいう声が降ってきたのは同時だった。
カチン。
呼び䍅を押したはずなのに、なにも聞こえない。
僕はドアに耳を押しあて、まう一度呼び䍅のボタンを押してみる。無音だ。壊れているのだろうか。ノックをしてみる。無反応。試みにドアノブに手をかけてみたら、あっさりと、ドアが開いた。
「すみませーん、電話した森嶋 [もりしま] です!」
室内を覗 [のぞ] いてみる。数時間前に名刺の番号に電話した時には、持ってるから今からおいでと赤シャツ本人に言われたのだ。恐る恐る足を踏み入れる。入ってすぐに小さなバーカウンターがあり、しかしその周囲には本やら書類やら段ボール箱やらが雑然と積まれ、更には酒瓶やら店屋物のチラシやら洋服やらがあちこちに散らばっていて、店とも住居ともオフィスともつかない。部屋全体が「まあどーでもいいんだけど」 という空気に満ちている。
「須賀さん、いらっしゃいますか?」
すこし足を進めると、ビーズカーテンで区切られた部屋の奥の、ソファーが目に留まった。ブランケットにくるまったふくらみがある。
「須賀さん?」
まっ白な長い素足がソファーからはみでていた。近づくと、足の爪はぴかぴかの水色に塗られていて、ヒールの高いごついサンダルを履いている。顔を見ると、若い女性だった。長いさらさらした髪が顔を隠している。小さな寢息が聞こえる。
「スガ……さん……?」
なわけないよなとは分かっていつつも、僕はなぜか女性から視線をそらすことができない。デニム地のショートパンツがものすごく短い。髪の隙間から見える睫毛 [まつげ] が、そういうマンガのキャラみたいにものすごく長い。紫色のキャミソールの胸元が、呼吸でゆったりと上下に揺れている。僕はおもむろにしゃがみ込む。すると、胸元が目の高さに来る。
「……いやダメだろう人として」
我に返った僕が目をそらしたのと、
「あ、おはよ」
よいう声が降ってきたのは同時だった。