第一章 島を出た少年(18)
飲みもの? と僕は思う。
「龍神系は気が強くて勝負強いけど、大雑把で適当な性格」
性格? さすがに取材意図と違う気がして言葉を挟もうとすると、
「え、それって私かな……」
と極めて真剣な声で夏美さんが言い、僕は思わず彼女の顏を見る。
「そして稲荷系の人は勤勉でビジネスでも成功しやすいけど、反面、気の弱いところもあるのでリーダーには不向き。なぜか美男美女が多いの」
「それって私だっ!」疑問が解けた子どもみたいな夏美さんの声
「今は天の気のバランスが崩れてるから、晴れ女や雨女が生まてやすいの。いわばガイアのホメオスタシスね」
「なるほど!」
「でも注意しないと……!」
ふいに占い師は声をひそめ、すすすと乗りだして僕たちを交互に見る。
「自然を左右する行為には、必ず重い代償が伴います。お嬢さん、なにか分かる?」
いいえ、と言って夏美さんが生唾 [なまつば] を飲む。占い師の声が一段低くなる。
「天候系の力はね、使いすぎると神隠しに遭ってしまうって言われてるの! ガイアと一体になってしまうのね。だから晴れ女や雨女の借金率、自己破產者数、失踪 [しつそう] 者数は有意に高いのよ!」
「それって……」夏美さんが眉 [まゆ] を寄せる。
「私、気をつけますっ!」
帰り際、夏美さんは占い師から『人生の金運が開ける開運グッズ』を買っていた。
「――で、どうだった?]
僕はため息の代わりにイヤフォンを外し、MacBookの画面から顏を上げた。事務所の蛍光灯を逆光に、須賀さんが僕を見下ろしている。
「……ボーカロイドみたいな声の占い師に、ラノベの設定みたいな話をえんえん聞かされました。力を使いすぎると消えちゃうとかなんとか」
僕はメモと録音を元に、占い師の話を原稿にしているところだったのだ。「やっぱそっち系だった?」ニヤニヤと須賀さんが言う。なんだよ分かってたのかよ、僕は腹が立ってくる。
「だいたい天気って、龍神系とか稲荷系とかガイアとか性格とか美男美女とか、そういうのぜんぜん関係ないですよね? 前線とか気圧変化とかの自然現象ですよね? 晴れ女とか雨女とかって、ぜんぶ『そんな気がする』っていう認知バイアスですよね? いるわけないじゃないですか!」
「龍神系は気が強くて勝負強いけど、大雑把で適当な性格」
性格? さすがに取材意図と違う気がして言葉を挟もうとすると、
「え、それって私かな……」
と極めて真剣な声で夏美さんが言い、僕は思わず彼女の顏を見る。
「そして稲荷系の人は勤勉でビジネスでも成功しやすいけど、反面、気の弱いところもあるのでリーダーには不向き。なぜか美男美女が多いの」
「それって私だっ!」疑問が解けた子どもみたいな夏美さんの声
「今は天の気のバランスが崩れてるから、晴れ女や雨女が生まてやすいの。いわばガイアのホメオスタシスね」
「なるほど!」
「でも注意しないと……!」
ふいに占い師は声をひそめ、すすすと乗りだして僕たちを交互に見る。
「自然を左右する行為には、必ず重い代償が伴います。お嬢さん、なにか分かる?」
いいえ、と言って夏美さんが生唾 [なまつば] を飲む。占い師の声が一段低くなる。
「天候系の力はね、使いすぎると神隠しに遭ってしまうって言われてるの! ガイアと一体になってしまうのね。だから晴れ女や雨女の借金率、自己破產者数、失踪 [しつそう] 者数は有意に高いのよ!」
「それって……」夏美さんが眉 [まゆ] を寄せる。
「私、気をつけますっ!」
帰り際、夏美さんは占い師から『人生の金運が開ける開運グッズ』を買っていた。
「――で、どうだった?]
僕はため息の代わりにイヤフォンを外し、MacBookの画面から顏を上げた。事務所の蛍光灯を逆光に、須賀さんが僕を見下ろしている。
「……ボーカロイドみたいな声の占い師に、ラノベの設定みたいな話をえんえん聞かされました。力を使いすぎると消えちゃうとかなんとか」
僕はメモと録音を元に、占い師の話を原稿にしているところだったのだ。「やっぱそっち系だった?」ニヤニヤと須賀さんが言う。なんだよ分かってたのかよ、僕は腹が立ってくる。
「だいたい天気って、龍神系とか稲荷系とかガイアとか性格とか美男美女とか、そういうのぜんぜん関係ないですよね? 前線とか気圧変化とかの自然現象ですよね? 晴れ女とか雨女とかって、ぜんぶ『そんな気がする』っていう認知バイアスですよね? いるわけないじゃないですか!」