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第一章 島を出た少年(15)

「うわあああっ」
思わず叫んで直立する。いつの間にか女性がぱっちりと目を開けている。
「あっ、あのっ、すみません俺!」
「あー圭ちゃんから聞いてるよ」上半身を起こしつつ、けろりとした様子で女性が言う。「新しいアシスタントが来るって」
「え? いや俺まだ――」
「私は夏美 [なつみ] 、よろしくね。あー、やーっと雑用から解放されるなー!」
そう言って気持ちよさそうに伸びをする女性は、あらためて見るとものすごい美女だった。白くてすらっとしていて滑らかでバチッとしていて整っていて眩 [まぶ] しくて、テレビや映画の中のヒみたいだ。
「ねーねー少年さー」夏美さんと名乗った女性が、背中を向けたまま言う。
バーカウンターの奥に十畳ほどのリビングがあり、どうやらここがこの会社のオフィススペースらしい。僕は椅子に座って、小さなキッチンで飲みものを用意する夏美さんの肩甲骨をさっきから眺めている。
「はい?」
「あのさー」
「はい」

第一章   島を出た少年


「さっき胸見たでしょ?」
「見てませんっ!」
思わずうわずった声が出た。夏美さんは鼻歌なんかを楽しそうに歌いながら、僕の目の前にアイスコーヒーを置く。
「少年、名前は?」僕の向かいに腰掛けた夏美さんがころりとした声で言う。
「森嶋帆高です」
「ホダカ?」
「ええと、船の帆に、高いって書いて……」
「ふーん、素敵な名前じゃん」
僕はすこしどきりとする。素敵って誰かに言われたのって、もしかして人生初かも。
「夏美さんって、ここの事務所のですか?」
「え、私と圭ちゃんの関係?」
須賀さんの名前はたしか圭介だったはずだと僕は思い出す。
「え、はい」
「ウケるー!」
え、なんかおかしなこと言った? 夏美さんはひとしきり笑ってから、ふいに目を細めた。睫毛が目元に影を作る。上目遣いで僕の目を覗き込む。
「君のぉ、想像どおりだよ」
「えっ!」
小指をぴんと立ててやけに色っぽく言う夏美さんを、僕は呆然 [ぼうぜん] と見つめてしまう。

第一章   島を出た少年


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