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第一章 島を出た少年(12)

「……」
たっぷり十秒くらい、たぶん僕は呆 [ほう] けていた。はっと我に返る。ビックマックの箱が、特別なプレゼントのようにちょこんとテーブルにある。箱を開けてみる。香ばしい肉の匂いとともに、分厚いバンズがふわっと膨らんだ。手に取ると、ずっしりと重い。ぴかぴかのチーズとレタスがビーフバティの間からはみでている。
僕の十六年の人生でこれが間違いなくだんとつで――一番美味 [おい] しい夕食だった。
* * *
「やだ、もうバス停に着いちゃうじゃん! ねえねえ、次はいつ会えるかな?」
「そうだなあ、明後日 [あさつて] はどう? 練習があるけど、午後から空いてるからさ」
「やった! 食ベログで見つけたカフェでね、私行ってみたいところがあるんだ。予約しちゃおっかなー!」
昼下がりの都バスに揺られている僕の耳に、さっきからい会話が聞こえてくる。それは後部座席からの声で、なんとなく振り返るのもはばかられて、僕は車窓を眺めている。複雑な模様を描いて後ろに流れていく水滴を見つめながら、カップルって本当にこんな会話をするんだなと僕は妙に感心してしまう。今までグルメアプリの需要がいまいちぴんとこなかったけど、都会の人って本当に食ベログとか見るんだな。カフェって予約とかまでして行くものなんだな。スマホに目を移す。現在位置を示す青いドットが、目的地に立った赤いフラッグアイコンにゆっくり近づいていく。到着まであと十分。なんだか緊張してきた。

第一章   島を出た少年


ぴんぽーんと電子音が鳴り、運転席の横のモニターに「停車します」と表示され、「じゃあまたね、凪 [なぎ] くん!」と弾んだ声がした。バスを降りていくショートカットの女の子の姿を見て、僕は驚く。「交通安全」と書かれたランドセルを背負 [しよ] った、まだ小学生だったのだ。え、マジ? やっぱすげえな東京。小学生が食ベログ見るのか。
「あ、ラッキー!」
入れ替わるようにして、今度はロングヘアの小学生女子がバスに乗り込んで来た。「凪くん、会えると思ったんだ!」と言いつつ嬉 [うれ] しそうに後部座席に駆け寄っていく姿を、僕は思わず目で追ってしまう。
「げ!」
後部座席に半ズボンの脚を組んで座っていたのは、どう見ても十歳程度の小学生男子だった。「や、カナ」と
、駆け寄る女子に対して優雅に手を振る。彼女のランドセルを、エスコートするように笑顔で受け取る。 さらさらのショートボブと切れ長の瞳、幼いのにやけに整った顔立ちの、なんだか王子さまめいた男の子だ。この男の子、もしかしてバス停ごとに彼女がいるのか? バスが発車し、僕は引き剥 [は] がすように視線を戻す。背中からイチャコラが聞こえてくる。
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