三月のパンタシア「ガールズブルー」冬(5)
お弁当食べなよ、と伽耶が笑う。包みを開き蓋を開けると、私の好物ばかりがきれいに並んでいた。47 #三パシ冬
胸がぎゅっと苦しくなる。私は大好きな唐揚げを、ゆっくり噛みしめた。
分かっている。父も、私のことが心配なだけなのだ。私はきっと過保護に育ってきた。大切に育てられてきたことが分かる。でも、私も同じように、この夢を大切に育てたいのだ。48 #三パシ冬
空の弁当箱を鞄に戻していると、くしゅん、とくしゃみが出た。
「帰る?」とさらりとした口調で伽耶が言う。
「…帰りたくない」
ぼそりと言う私に、カップルか!と突っ込む伽耶の心強さは計り知れない。でもこれ以上、迷惑はかけたくなかった。49 #三パシ冬
「ここまで来てくれて、本当にありがとう。話も聞いてもらえて元気出た。後は一人で大丈夫だから!」今日一番元気な声色で、笑顔で言った。
「…まだ終電あるし、私は帰れる。でも、未央ちゃん一人になっちゃうよ?いいの?」ねぇ、と大きな瞳で問い詰められる。50 #三パシ冬
「それは、寂しいけど…」
「じゃあ一緒にいて、って言いなさい。今更遠慮はなしだよ」
そう言って拗ねる伽耶が何だか愛おしくてたまらなかった。「ありがとう」と伽耶を見上げると数秒見つめ合うような形になり、急におかしくなって、私達はクスクス笑いあった。51 #三パシ冬
夜はまん喫かなぁ、と呟く伽耶。隣駅に一軒あると言う。駅まで戻ろ、と言う彼女に「あの線路沿いの道を歩いてみようよ」そう提案した。田舎の一駅は4,5Kmある。でも何だかもう少し二人でこの夜を歩きたかった。んー、と少し悩み「いいね、楽しそう」と悪戯っぽい瞳で伽耶は笑った。52 #三パシ冬
スタンドバイミーみたい、と笑いながら夜道を歩く。私達の秘密の旅。伽耶とならどこへでも行けそう、なんて強気に思うけどふとした瞬間、深い夜が心を襲いにくる。伽耶の袖をぎゅっと掴むと優しく宥めてくれた。
見上げた夜空には私達を見守るように、小さな星がぽつぽつ光っていた。53 #三パシ冬
一時間ほど歩きやっと目的の駅に着くとすぐ目の前に「まんが喫茶」の看板があった。
金曜の夜だからか、少し混んでいた受付で支払いを済ませ、初めてのペアシートは何だか落ち着かなくて、そわそわしながら一人雑誌を読む。じゃんけんに勝った伽耶は、先にシャワーを浴びている。54 #三パシ冬
シャンプーの香りで閉じかけていた瞼が上がる。伽耶が戻っていた。私は重たい身体を引きずりシャワー室へ向かう。
熱いお湯を浴びるとゆるゆると筋肉がほぐれて、こんなにも身体が強張っていたことに気づかされる。何もかも洗い流すかのように、私は丁寧に身体を洗いシャワー室を出た。55 #三パシ冬