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「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本(9)

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


 まさかまさかと思っていました、私の疑いが、余りに明かな事実となって現れたのを見ますと、世慣れぬ小娘の私は、ただもうハッとして、腹立たしいよりは恐ろしく、恐ろしさと、身も世もあらぬ悲しさに、ワッと泣き出したいのを、僅にくいしめて、瘧おこりの様に身を戦おののかせながら、でも、そんなでいて、やっぱり上の話声に聞き耳を立てないではいられなかったのでございます。
「この様なおう瀬を続けていては、あたし、あなたの奥様にすみませんわね」
 細々ほそぼそとした女の声は、それが余りに低いために、殆ど聞き取れぬほどでありましたが、聞えぬ所は想像で補って、やっと意味を取ることが出来たのでございます。声の調子で察しますと、女は私よりは三つ四つ年かさで、しかし私の様にこんな太っちょうではなく、ほっそりとした、丁度泉鏡花さんの小説に出て来る様な、夢の様に美しい方に違いないのでございます。
「私もそれを思わぬではないが」と、門野の声がいうのでございます「いつもいって聞かせる通り私はもう出来るだけのことをして、あの京子きょうこを愛しようと努めたのだけれど、悲しいことには、それがやっぱり駄目だめなのだ。若い時から馴染なじみを重ねたお前のことが、どう思い返しても、思い返しても、私にはあきらめ兼ねるのだ。京子にはお詫わびのしようもないほど済まぬことだけれど、済まない済まないと思いながら、やっぱり、私はこうして、夜毎にお前の顔を見ないではいられぬのだ。どうか私の切ない心の内を察しておくれ」

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


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