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「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本(6)

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


では、もしや、あれではないのかしら。といいますのは、門野は先から申します様に、非常に憂鬱なたちだものですから、自然引込ひっこみ思案で、一間まにとじ籠こもって本を読んでいる様な時間が多く、それも、書斎では気が散っていけないと申し、裏に建っていました土蔵の二階へ上あがって、幸いそこに先祖から伝わった古い書物が沢山たくさん積んでありましたので、薄暗い所で、夜などは昔ながらの雪洞ぼんぼりをともして、一人ぼっちで書見しょけんをするのが、あの人の、もっと若い時分からの、一つの楽たのしみになっていたのでございます。それが、私が参ってから半年ばかりというものは、忘れた様に、土蔵のそばへ足ぶみもしなくなっていたのが、ついその頃になって、又しても、繁々しげしげと土蔵へ入る様になって参ったのでございます。この事柄に何か意味がありはしないか。
私はふとそこへ気がついたのでございました。

 土蔵の二階で書見をするというのは少し風変りと申せ、別段とがむべきことでもなく、何の怪しい訳もない、と一応はそう思うのですけれど、又考え直せば、私としましては、出来るだけ気を配って、門野の一挙一動を監視もし、あの人の持物なども検しらべましたのに、何の変った所もなく、それで、一方ではあの抜けがらの愛情、うつろの目、そして時には私の存在をすら忘れたかと見える物思いでございましょう。もう蔵の二階を疑いでもする外には、何のてだても残っていないのでございます。それに妙なのは、あの人が蔵へ行きますのが、極って夜更けなことで、時には隣に寝ています私の寝息を窺うかがう様にして、こっそりと床とこの中を抜け出して、御小用おこようにでもいらっしったのかと思っていますと、そのまま長い間帰っていらっしゃらない。縁側えんがわに出て見れば、土蔵の窓から、ぼんやりとあかりがついているのでございます。

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


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