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「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本(4)

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


ほんとうに世界が一変したのでございます。二た親のもとで育てられていた十九年を現実世界にたとえますなら、御婚礼の後のちの、それが不幸にもたった半年ばかりの間ではありましたけれど、その間はまるで夢の世界か、お伽噺とぎばなしの世界に住んでいる気持でございました。大げさに申しますれば、浦島太郎うらしまたろうが乙姫様おとひめさまの御寵愛ごちょうあいを受けたという龍宮りゅうぐう世界、あれでございますわ、今から考えますと、その時分の私は、本当に浦島太郎の様に幸福だったのでございますわ。世間では、お嫁入りはつらいものとなっていますのに、私のはまるで正反対ですわね。いいえ、そう申すよりは、そのつらい所まで行かぬ内に、あの恐ろしい破綻はたんが参ったという方が当たっているのかも知れませんけれど。
 その半年の間を、どの様にして暮しましたことやら、ただもう楽たのしかったと申す外に、こまごましたことなど忘れても居りますし、それに、このお話には大して関係のないことですから、おのろけめいた思出話は止しにいたしましょうけれど、門野が私を可愛がってくれましたことは、それはもう、世間のどの様な女房思いの御亭主でも、とても真似まねも出来ないほどでございました。無論私は、それをただただ有難いことに思って、いわば陶酔してしまって、何の疑いを抱く余裕もなかったのでございますが、この門野が私を可愛がり過ぎたということには、あとになって考えますと、実に恐しい意味があったのでございます。といって、何も可愛がり過ぎたのが破綻の元だと申す訳ではありません、あの人は、真心をこめて、私を可愛がろうと努力していたに過ぎないのでございます。

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


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