「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本(2)
そんな風にして、段々洩もれ聞いた所を寄せ集めて見ますと、心配をしていた、一方のみだらな噂などはこれっぱかりもない代りには、もう一つの気むずかし屋の方は、どうして一通りでないことが分って来たのでございます。いわば変人とでも申すのでございましょう。お友達なども少く、多くは内の中に引込み勝ちで、それに一番いけないのは、女ぎらいという噂すらあったのでございます。それも、遊びのおつき合いをなさらぬための、そんな噂なら別条はないのですけれど、本当の女ぎらいらしく、私との縁談にしましてからが、元々親御おやごさん達のお考えで、仲人に立った方は、私の方よりは、却かえって先方の御本人を説きふせるのに骨が折れたほどだと申すのでございます。尤もっともそんなハッキリした噂を聞いた訳ではなく、誰かが一寸ちょっと口をすべらせたのから、私が、お嫁入りの前の娘の敏感で独合点ひとりがってんをしていたのかも知れません。
いいえ、いざお嫁入りをして、あんな目にあいますまでは、本当に私の独合点に過ぎないのだと、しいてもそんな風に、こちらに都合のよい様に、気休めを考えていたことでございます。これで、いくらか、うぬぼれもあったのでございますわね。
あの時分の娘々した気持を思い出しますと、われながら可愛らしい様ようでございます。一方ではそんな不安を感じながら、でも、隣町の呉服屋ごふくやへ衣裳いしょうの見立に参ったり、それを家中うちじゅうの手で裁縫したり、道具類だとか、細々こまごました手廻まわりの品々を用意したり、その中へ先方からは立派な結納ゆいのうが届く、お友達にはお祝いの言葉やら、羨望せんぼうの言葉やら、誰かにあえばひやかされるのがなれっこになってしまって、それが又恥かしいほど嬉うれしくて、家中にみちみちた花はなやかな空気が、十九の娘を、もう有頂天うちょうてんにしてしまったのでございます。
一つは、どの様な変人であろうが、気むずかし屋さんであろうが、今申す水際立った殿御振ぶりに、私はすっかり魅せられていたのでもございましょう。それに又、そんな性質の方に限って、情が濃こまやかなのではないか、私なら私一人を守って、凡すべての愛情という愛情を私一人に注ぎつくして、可愛がって下さるのではないか、などと、私はまあなんてお人よしに出来ていたのでございましょう。そんな風に思っても見るのでございました。
いいえ、いざお嫁入りをして、あんな目にあいますまでは、本当に私の独合点に過ぎないのだと、しいてもそんな風に、こちらに都合のよい様に、気休めを考えていたことでございます。これで、いくらか、うぬぼれもあったのでございますわね。
あの時分の娘々した気持を思い出しますと、われながら可愛らしい様ようでございます。一方ではそんな不安を感じながら、でも、隣町の呉服屋ごふくやへ衣裳いしょうの見立に参ったり、それを家中うちじゅうの手で裁縫したり、道具類だとか、細々こまごました手廻まわりの品々を用意したり、その中へ先方からは立派な結納ゆいのうが届く、お友達にはお祝いの言葉やら、羨望せんぼうの言葉やら、誰かにあえばひやかされるのがなれっこになってしまって、それが又恥かしいほど嬉うれしくて、家中にみちみちた花はなやかな空気が、十九の娘を、もう有頂天うちょうてんにしてしまったのでございます。
一つは、どの様な変人であろうが、気むずかし屋さんであろうが、今申す水際立った殿御振ぶりに、私はすっかり魅せられていたのでもございましょう。それに又、そんな性質の方に限って、情が濃こまやかなのではないか、私なら私一人を守って、凡すべての愛情という愛情を私一人に注ぎつくして、可愛がって下さるのではないか、などと、私はまあなんてお人よしに出来ていたのでございましょう。そんな風に思っても見るのでございました。