百合文库
首页 > 网文

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本(15)

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本



 それほど私を驚かせたものが、ただ一個の人形に過ぎなかったと申せば、あなたはきっと「なあんだ」とお笑いなさるかも知れません。ですが、それは、あなたが、まだ本当の人形というものを、昔の人形師の名人が精根を尽くして、拵え上げた芸術品を、御存知ないからでございます。あなたはもしや、博物館の片隅なぞで、ふと古めかしい人形に出あって、その余りの生々なまなましさに、何とも知れぬ戦慄せんりつをお感じなすったことはないでしょうか。それが若もし女児おなご人形や稚児ちご人形であった時には、それの持つ、この世の外ほかの夢の様な魅力に、びっくりなすったことはないでしょうか。あなたは御みやげ人形といわれるものの、不思議な凄味すごみを御存知でいらっしゃいましょうか。或は又、往昔衆道おうせきしゅうどうの盛んでございました時分、好き者達が、馴染の色若衆の似顔人形を刻ませて、日夜愛撫したという、あの奇態な事実を御存知でいらっしゃいましょうか。
いいえ、その様な遠いことを申さずとも、例えば、文楽ぶんらくの浄瑠璃じょうるり人形にまつわる不思議な伝説、近代の名人安本亀八の生いき人形なぞを御承知でございましたなら、私がその時、ただ一個の人形を見て、あの様に驚いた心持を、十分御察し下さることが出来ると存じます。

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


猜你喜欢