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「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本(13)

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


意識が混乱して、ふとその様な、我身に都合のよい妄想が、浮かび上るほど、それほど私の頭は乱れ切っていたのでございます。なぜと申して、あの睦言の意味を考えましても、その様な馬鹿馬鹿しい声色を使う人が、どこの世界にあるものでございますか。

 門野家は町でも知られた旧家だものですから、蔵の二階には、先祖以来の様々の古めかしい品々が、まるで骨董屋こっとうやの店先の様に並んでいるのでございます。三方の壁には今申す丹塗にぬりの長持が、ズラリと並び、一方の隅には、昔風の縦に長い本箱が、五つ六つ、その上には、本箱に入り切らぬ黄表紙、青表紙が、虫の食った背中を見せて、ほこりまみれに積み重ねてあります。棚の上には、古びた軸物の箱だとか、大きな紋のついた両掛け、葛籠つづらの類、古めかしい陶器類、それらに混って、異様に目を惹ひきますのは、鉄漿おはぐろの道具だという、巨大なお椀わんの様な塗物ぬりもの、塗り盥だらい、それには皆、年数がたって赤くなってはいますけれど、一々金紋きんもんが蒔絵まきえになっているのでございます。それから一番不気味なのは、階段を上あがったすぐの所に、まるで生きた人間の様に鎧櫃よろいびつの上に腰かけている、二つの飾り具足ぐそく、一つは黒糸縅くろいとおどしのいかめしいので、もう一つはあれが緋縅ひおどしと申すのでしょうか、黒ずんで、所々糸が切れてはいましたけれど、それが昔は、火の様に燃えて、さぞかし立派なものだったのでございましょう。

「人でなしの恋」(青空文库版)索尼YOMIBITO有声书文本


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