【极北的彼方】故事线前外传「雨を乞う星夜」（机翻 附作者原文）(24)

　通話を終了して、画面が暗くなったスマートフォンを再びテーブルへ置く。
「……ふぅ。焦ったなぁ。……アレックス？」
　そこで、彼の姿が見えないことに気づいた。
　椅子から立ち上がって、ブランケットを背もたれに掛ける。そのまま家の中を見て回ろうとしたが、リビングに置かれていた二つのスーツケースは、一つになっていた。
「………………」
　そうか。僕が居眠りをしている間に出発してしまったのか。最後に”いってらっしゃい”とキスをしたかったけど、仕方ない。きっと、気持ち良く寝ている僕を起こさないことにしたんだろう。アレックスはそういう気づかいをする男だ。
　代わりに再びスマートフォンを操作し、メッセージを送ることにした。
”寝ちゃってたよ。見送れなくてごめんね。気を付けて”
　送信ボタンをタップした時、庭先で人の気配がした。
「アレックス？」
　他の部屋にも目を配りつつ玄関へ向かうと、扉にはしっかりと鍵が掛かっていた。もうアレックスは旅へ出発してしまったのだと分かってはいるものの、扉を開ければそこに彼がまだ居るような気がして、取っ手に手を掛ける。それを静かに引くと、向こう側にはいつもの景色が広がっているだけだった。黒く分厚い雨雲はどこかへ消え去り、代わりに赤紫色の空の中で、細い雲がたなびいている。既に夜の帳が広がり始めている方角には、いくつかの星が煌めいていた。

「……もう、居る訳ないか」
　そう一言呟いた時、手に持っていたスマートフォンが振動した。画面を見てみると、そこにはアレックスからの返信が表示されていた。
”ありがとう”
　絵文字はもちろん、他に何の言葉もないシンプルな返信だったものの、それが逆に彼らしくて、僕は少しだけ笑顔になった。
「……おっと。僕も準備して出かけないと」
　もう少しだけ空のグラデーションを見ていたい気持ちもあったが、きっと子供たちは雨が上がったことを喜び、天体観測の開始を待っているだろう。僕は玄関の扉をゆっくりと閉める。すると、家の前を走る自動車の音、時折吹く風の音、そして木々の葉から滴り落ちる雨雫の音……それらは完全に遮断され、家の中は僕と静寂だけになった――。