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第一章 島を出た少年(19)

僕がネットでググった正論をぶつけると、
「あのなあ」須賀さんはふいに苛立 [いらだ] ったような声になる。
「こっちはそんなのぜんぶ分かっててエンタメを提供してんの。そんで読者もぜんぶ分かってて読んでんの。社会の娯楽を舐 [な] めんじゃねえよ」
僕は言葉を飲み込む。須賀さんはMacBookの画面を覗 [のぞ] き込み、僕の書きかけの原稿を読んでいる。――そういうもんなのか。僕は実はうっすらと感動してしまっている。ぜんぶ分かってやっている。社会の娯楽を舐めんじゃねえよ。
「まだこれしか書けてねえのかよ遅 [おせ] えなあ」
顏を上げた須賀さんに言われ、すみません、と反射的に頭を下げてしまう。
「……でもまあ、文章は悪くねえな」
ぼそりと言われたその言葉に、あめ玉をもらった子どもみたいに嬉 [うれ] しくなった。僕は中学の頃から小説めいた文章を書くことが好きで(誰にも言ったことはなく、まだ完成した作品と呼べるものは一編もないけれど)、文章を書くことにはささやかな自信があったのだ。それにしても――この人といると気持ちがジェットコースターみたいに上下することに、僕は気づく。

第一章   島を出た少年


「おっし、少年採用!」
「え……ええ!? ちょっと持ってくださいよ、俺やるなんてひと言も――」
まだ採用条件も給与内容もなにも聞いていないのだ。バイトを探しているのは確かだけど、こんな怪しい事務所で――。
「この事務所に住み込み可」
「え?」
「飯付き」
「……や、やりますっ! やらせてくださいっ!」思わず前のめりに言っていた。欲しいものだけが詰まった福袋を見つけたように、他の誰にも渡したくない気持ちに僕は急になっている。須賀さんは嬉しそうに、「そうかそうか!」と僕の背中をばんばんと叩く。
「で、君、名前なんだっけ?」
「え?」気持ちがからんと冷める。ちょっと持てよおい、名前も覚えていない人間を雇おうとしてたの?
「ウケる!」
キッチンの夏美さんが笑って僕たちを見、
「帆高くんでしょ」と言いながら料理を運んでくる。
「あ、俺手伝います!」
大量の唐揚げに白髪葱 [しらがねぎ] と大根おろしがたっぷり添えられた大皿。トマトとアボカドと玉ねぎのサラダ。牛肉やセロリやマグロがはみでた手卷き寿司 [ずし] 。急に、強烈にお腹がすいてくる。ほら、と須賀さんから渡されたのはやはり缶ビールで、僕はもうなにも言わずにコーラの缶と取り替える。

第一章   島を出た少年


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