安珍清姫(3)
ところが清姫(きよひめ)は、そんな事とはつゆしらず、いまかいまかと安珍(あんちん)の帰りを待ちわびています。
「安珍(あんちん)さま。安珍(あんちん)さまは、どうなされたのじゃろう?」
待ちきれなくなった清姫(きよひめ)は、家を飛び出すと、見知らぬ旅人に声をかけました。
「あの、もし、熊野(くまの)もうでの若(わか)い旅のお坊(ぼう)さまに、お会いになりはしませんでしたか?」
「ああ、その方なら、たぶん別の道をいかれたと思うが」
「別の道を! あんなにかたい約束をしたのに、まさか。そんなはずが」
清姫(きよひめ)は、夢中(むちゅう)でかいどうを走りだしました。