【生肉/八月的灰姑娘棒球队官网小说】对我没有用的咒语——野崎夕姬
「ねえ夕姫。緊張を解く方法教えてあげようか?」
美砂にいきなり話しかけられ、夕姫の肩が震えた。
「ど、どんな方法ですか……?」
美砂は前歯を見せて笑いながら、夕姫の目の前に飴玉を差し出す。
「甘いものを食べること。ただし、試合が始まる前に食べ終えてね!」
「本当ですか? 飴を食べたら緊張しない……?」
「……まあ、おまじないみたいなものだよ! 信じれば、嘘も予言に変わるのです」
「ありがとうございます」
美砂からもらった飴玉の封を開け、夕姫は壊れ物でも扱うように、大切に口の中に含んだ。
「今日は乙女座が一位だから、夕姫にも活躍するチャンスあるかもよ?」
ユニフォームに着替えた美砂は、夕姫に背を向けてコートに向かう。夕姫も念のためユニフォームに着替え、数分遅れて、美砂たちの後に続いた。
今日は他校のバスケ部との練習試合だ。
コートの真ん中に立つ審判が、バスケットボールを宙に投げた。ジャンプボールに成功したのは、敵の選手だ。試合は相手チームの攻撃で幕を開けた。
十人分のバスケットシューズが体育館の床に擦れて、キュッと音を立てる。それを聞くたびに気持ちが引き締まった。
みんな、すごい。心の中でそうつぶやいた夕姫は自分の唇に指を添える。食べ終えたメロン飴の味が、まだほのかに残っていた。
チームメイトが強引なカッティングでパスを横取りしていく。審判に隠れて敵のユニフォームを引っ張りシュートの邪魔をしている。
仲間の試合を見ながら、夕姫は息を飲む。自分がコートに立った時、同じようにプレイできる自信がなかった。
せめて声出しくらいはがんばろうとベンチから声援を送る。練習試合の相手は公式戦でもよくあたるライバル校だ。今は二十八対三十二で夕姫たちの方がリードしていた。
ピッ、と審判の笛が鳴る。
相手チームの選手が体当たりしてきて、選手が二人、転倒してしまったのだ。
このくらいのことは試合中によくおきる。大した怪我ではなかったけれど、監督は気難しそうに腕を組んだ。
「野崎、行けるか」
「えっ!? わ、私ですか?」
「行けるか?」
「はっ、はい!」
準レギュラーの夕姫は試合にでる機会がすくない。この試合は貴重な活躍の場だった。
夕姫は首にかけていたタオルをおいてコートに入った。練習試合前にシュートやドリブルの練習をしていたから、体はもう十分に温まっている。
「あ、選手交代だ。あの人すごい背高いね。シュートばんばん入れてきそう」
ギャラリーの声を耳にして、夕姫は体がこわばった。期待されると、肩に余計な力が入る。バスケットボールのドリブル音よりも、自分の心臓の音の方が大きく聞こえた。