【生肉/八月的灰姑娘棒球队官网小说】东云龙 本垒打的女王
龍は軽く腰を落とし、バットを握る。時速一四〇キロのストレート。バットの芯でボールを捉えた。鋭く打ち上がったボールは、天井に掲げられた「ホームラン」の看板にぶつかり、音割れしたラッパ演奏が室内に流れる。
「さすがだねえ」
おおらかに微笑むオーナーの前で、龍は再びバットを構えた。一本や二本のホームランで一喜一憂していられない。龍の目指す場所は、もっともっと先にある。
プロ野球で活躍している龍の兄は、試合中に年間四十本以上のホームランを打っていた。
(兄たちと比べることはない、私は私の野球をやるだけよ)
自分にそう言い聞かせても、脳裏に兄たちの姿がよぎる。
バッティングマシーンからボールが飛び出した。速さや球種はランダムに設定されている。龍は向かってくる球を黙々と打ち返した。
龍の通うバッティングセンターは駅から遠く離れたところにあった。自転車やバスでここに駆けつけるのは向上心のある野球部員ばかりだ。アミューズメントパークにあるバッティングセンターとは違って、精度の高いトレーニング用のマシーンが揃っている。
質素な壁には「先月のホームラン王」の名前が貼り出されていた。一位の座は、龍が独占し続けている。
「今月のホームラン王も龍ちゃんかな」
バッティングセンターのオーナーがそう言った時、隣のブースからホームランを祝うラッパの音が聞こえた。
二十歳前後の男の人だ。彼は軽く腰を回すと、休むことなく再びバットを構える。
「……ついに刺客が現れたね。念願のライバル出現だよ。どうする、龍ちゃん」
「今までと変わらないわ。私は私に必要なことをこなすだけよ」
フルスイングする龍のそばから、カンッ、と小気味良い音が聞こえる。連続ホームランにはならなかったものの、彼がバットを振るタイミングはばっちりだ。龍は隣のバッティングブースを一瞥する。
(どこの野球チームの人かしら)
彼は龍の方に見向きもせず、ただひたすらにバットを振っていた。野球一筋に見えるその横顔は、少し兄たちに似ていると思った。
◇
「ここで、東雲が打ちましたー! 兄弟揃って、今シーズンは絶好調ですね」
兄の顔が、テレビに大きく映し出される。小麦色に焼けた肌には玉のような汗が輝いていた。
外国から取り寄せたソファーにゆったり腰掛けている母が微笑む。
「うちのお兄ちゃんたちはみんなすごいわね。見た? ここだっ、っていうところで、しっかり打ってくれたわね」
「俺が社会人野球やってた頃よりずっとうまいな。子は親を越えていくんだなぁ」
母のとなりで、父が神妙に頷く。
龍には三人の兄がいる。そのうち二人はプロ野球選手として躍進中だ。末兄は大学野球で良い成績を残し、プロ入り確実だと言われている。