【搬运】真岛芳树:千夜之梦日语版(3)
「平気よ、ちょっと冷たいくらいが気持ちいいんだもの」
「だめですよ。こういうことは俺の仕事です。姫様はこんなことしちゃいけません」
「あら、真島ったら」と、姫はなぜか嬉しそうにクスクスと笑った。「そんな風に私を説教する使用人なんて、家令の藤田くらいのものよ」
俺はどきりとして、「申し訳ありません」と慌てて頭を下げる。この少女があまりにも天真爛漫なものだから、姫ということを忘れていた。
「いいの、謝らないで、真島。お前ってなんだか面白いわ。これからもっとたくさんお話しましょうね」
「はい…」
姫は上機嫌な顔をして、草履をひょいと摘み濡れたままの足で邸の中へ入って行った。予想通り、中から奥方の悲鳴のような声が上がる。俺は一人で小さく噴き出した。
(不思議な娘だ)
強制的に周囲を明るくしてしまうような魅力を持っている。太陽のような少女だ。元始女性は太陽であったという文句を書いた者がいるが、なるほどそれは彼女のような存在を指すのだろう。
(あの娘が、俺の妹……)
愚かな母と悪魔の父から生まれたとは思えぬほど愛くるしい、利発な目をした少女だ。その後は一日中姫の顔が頭から離れなかった。その夜ばかりは、復讐のことを忘れた。
因縁の邸で生活を始めて一週間ほどが過ぎれば、姫は想像以上のじゃじゃ馬だということがよく分かった。俺の想像の華族の姫様とはいつも邸の奥にいて琴を弾くか刺繡でも嗜むかお茶でも飲んでいるかといった具合なのに、ここの姫ときたら池に入ることはさほど珍しくなく、いないと思えば木に上っている。「だって少しでも上にいた方が涼しくて気持ちがいいんだもの」とは彼女の弁だが、枝が折れかけて落ちそうになったときにはさすがに血の気が引いた。
「姫様!」と、上から飛び降りた姫を必死で両腕に抱きとめれば、未だ成熟しない、少女の華奢な軽さが不安で、思わずひしと抱き締めてしまいそうになる。
「真島は正義の味方ね。いつでも私を助けてくれるもの」と、無邪気に笑いかけてくるのがいっそ憎らしい。ふと見てみれば、膝小僧に擦りむいた痕があり僅かに血が渗んでいる。その赤さに、目眩を覚えた。
「姫様、今日のお遊びはもうおしまいですよ」
俺は半ば無理矢理姫を部屋に連れて行き、水で傷口を洗い、手当をした。こういうときの彼女はとても大人しい。借りてきた猫のようにじっとして、俺の一挙手一投足を観察しているようだ。
「だめですよ。こういうことは俺の仕事です。姫様はこんなことしちゃいけません」
「あら、真島ったら」と、姫はなぜか嬉しそうにクスクスと笑った。「そんな風に私を説教する使用人なんて、家令の藤田くらいのものよ」
俺はどきりとして、「申し訳ありません」と慌てて頭を下げる。この少女があまりにも天真爛漫なものだから、姫ということを忘れていた。
「いいの、謝らないで、真島。お前ってなんだか面白いわ。これからもっとたくさんお話しましょうね」
「はい…」
姫は上機嫌な顔をして、草履をひょいと摘み濡れたままの足で邸の中へ入って行った。予想通り、中から奥方の悲鳴のような声が上がる。俺は一人で小さく噴き出した。
(不思議な娘だ)
強制的に周囲を明るくしてしまうような魅力を持っている。太陽のような少女だ。元始女性は太陽であったという文句を書いた者がいるが、なるほどそれは彼女のような存在を指すのだろう。
(あの娘が、俺の妹……)
愚かな母と悪魔の父から生まれたとは思えぬほど愛くるしい、利発な目をした少女だ。その後は一日中姫の顔が頭から離れなかった。その夜ばかりは、復讐のことを忘れた。
因縁の邸で生活を始めて一週間ほどが過ぎれば、姫は想像以上のじゃじゃ馬だということがよく分かった。俺の想像の華族の姫様とはいつも邸の奥にいて琴を弾くか刺繡でも嗜むかお茶でも飲んでいるかといった具合なのに、ここの姫ときたら池に入ることはさほど珍しくなく、いないと思えば木に上っている。「だって少しでも上にいた方が涼しくて気持ちがいいんだもの」とは彼女の弁だが、枝が折れかけて落ちそうになったときにはさすがに血の気が引いた。
「姫様!」と、上から飛び降りた姫を必死で両腕に抱きとめれば、未だ成熟しない、少女の華奢な軽さが不安で、思わずひしと抱き締めてしまいそうになる。
「真島は正義の味方ね。いつでも私を助けてくれるもの」と、無邪気に笑いかけてくるのがいっそ憎らしい。ふと見てみれば、膝小僧に擦りむいた痕があり僅かに血が渗んでいる。その赤さに、目眩を覚えた。
「姫様、今日のお遊びはもうおしまいですよ」
俺は半ば無理矢理姫を部屋に連れて行き、水で傷口を洗い、手当をした。こういうときの彼女はとても大人しい。借りてきた猫のようにじっとして、俺の一挙手一投足を観察しているようだ。