【搬运】真岛芳树:千夜之梦日语版(2)
「何か落としてしまったんですか」
「え、ええ。手巾を風で飛ばされて」
俺とそう変わらぬように見える年頃の女中は、見知らぬ俺の顔を見てハッと硬直し、赤面した。
「あ、あの、あなたは」
「新しく入った庭師です。俺が姫様の代わりに取って来ましょう」
すでに石の上に無造作に投げ出された草履を見て、俺は思わず苦笑した。姫は金魚と流水文様の染め抜かれた涼しげな浴衣の裾をからげ、池の中央に浮かぶ白い手巾目指して躊躇することなくザブザブと行進中である。俺は急いでその後を追いかけ池に入り、「姫様!」と、声を張った。けれど彼女は振り返りもしない。
「俺が取りますから、姫様は上がって下さい」
「待って、もう少しで届くの」
「だから、俺が行きますから……」
思わずその細い手首を掴むど、少女はキョトンとした顔で、初めて俺の方を振り向いた。
「あら、あなた……」
——視線が絡まるとは、こういうことを言うのだろうと思った。俺は初めて対面した姫から目が離せず、その澄んだ瞳の奥に魂を吸い取られてしまったように動けなくなっていた。
「初めまして。新しく入った方?」
少女の快活な挨拶に、俺は嗄れた喉ではいと答える。己の声に我に返り、唾を飲んだ。そうだ、まず手巾を取らなければならない。
俺はさっさと手を伸ばしてその水面に浮いた小さな布を取り上げると、姫の手を掴んだまま岸へと歩いた。「自分で歩けるわ」という言葉はあえて無視をした。
繰り返し礼を言う女中を適当にあしらった後、姫に改めて自己紹介をした。
「新しく入りました園丁の真島と言います。よろしくお願いいたします、姫様」
「ああ、茂吉さんの代わりの方なのね。よろしくね、真島」
姫は輝くような笑顔を浮かべる。年端もいかない少女だが、なんと美しいのだろう。絶世の美女と言われる女たちを幾人も見てきたはずなのに、俺は心を動かされたことがなかった。それなのに、この姫を目の前にすると、まるで少年のように心をときめかせてしまう。まだほんの少ししか言葉を交わしていないというのに、一体これはどうしたことだろう。
「姫様、夏とは言え水は冷たいですから、お体を壊したら大変です。今度水に入るときは俺に言って下さいね。いつでも庭にいるんですから」
「え、ええ。手巾を風で飛ばされて」
俺とそう変わらぬように見える年頃の女中は、見知らぬ俺の顔を見てハッと硬直し、赤面した。
「あ、あの、あなたは」
「新しく入った庭師です。俺が姫様の代わりに取って来ましょう」
すでに石の上に無造作に投げ出された草履を見て、俺は思わず苦笑した。姫は金魚と流水文様の染め抜かれた涼しげな浴衣の裾をからげ、池の中央に浮かぶ白い手巾目指して躊躇することなくザブザブと行進中である。俺は急いでその後を追いかけ池に入り、「姫様!」と、声を張った。けれど彼女は振り返りもしない。
「俺が取りますから、姫様は上がって下さい」
「待って、もう少しで届くの」
「だから、俺が行きますから……」
思わずその細い手首を掴むど、少女はキョトンとした顔で、初めて俺の方を振り向いた。
「あら、あなた……」
——視線が絡まるとは、こういうことを言うのだろうと思った。俺は初めて対面した姫から目が離せず、その澄んだ瞳の奥に魂を吸い取られてしまったように動けなくなっていた。
「初めまして。新しく入った方?」
少女の快活な挨拶に、俺は嗄れた喉ではいと答える。己の声に我に返り、唾を飲んだ。そうだ、まず手巾を取らなければならない。
俺はさっさと手を伸ばしてその水面に浮いた小さな布を取り上げると、姫の手を掴んだまま岸へと歩いた。「自分で歩けるわ」という言葉はあえて無視をした。
繰り返し礼を言う女中を適当にあしらった後、姫に改めて自己紹介をした。
「新しく入りました園丁の真島と言います。よろしくお願いいたします、姫様」
「ああ、茂吉さんの代わりの方なのね。よろしくね、真島」
姫は輝くような笑顔を浮かべる。年端もいかない少女だが、なんと美しいのだろう。絶世の美女と言われる女たちを幾人も見てきたはずなのに、俺は心を動かされたことがなかった。それなのに、この姫を目の前にすると、まるで少年のように心をときめかせてしまう。まだほんの少ししか言葉を交わしていないというのに、一体これはどうしたことだろう。
「姫様、夏とは言え水は冷たいですから、お体を壊したら大変です。今度水に入るときは俺に言って下さいね。いつでも庭にいるんですから」