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EPISODE.3 「ひとりぽっちの誕生日」(2)

2023-08-20 来源:百合文库
自分の誕生日なんか、すっかり忘れていた。それよりも仕事だ。今日はデッカイ契約がある。これが成功したら、僕は間違いなく昇進する。
同期の連中の悔しげなかおが目に浮かぶようだ。は、あんなやつらに負けてなるものか。何たて僕はエリードなんだから。大学卒業後、大手(おおて)商社に入社して、二年になる、僕はここで出世の道を掴む、そう心に誓って仕事に打ち込んできた。ライバルを押しのけ、とにかく前へ前へと突き進む。手段は選ばない、それが僕のやり方だ。一方で、仕事しか脳がないと思われるのが得策ではない。仕事に遊び。それに、私生活を充実しているように見せなければ、この競争社会、信頼を得て抜(ぬ)きん出(で)るのが難しい。得意先の人間とは、徹底的に遊ぶ、どうせ会社の経費だ、いくら使っても結果さえ出せば問題ない。朝まで飲んで、羽目を外すことだって、当然仕事の一環だ。ようは、得意先に僕が愉快で親しみやすいやつだと思わせればいい。彼女だって当然必要だ。
性格に言えば、彼女くらい作れない男は仕事が出来ないと思われても仕方がないからだ。年をとれば、妻帯者の方が信頼度が高い。だから、婚約者の方が聞こえがいいこともある。だが、注意点もある、社内恋愛は極力避けなければならない。分かれた時の相手の出方次第で、社内表現を下げることが考えられるからだ。出世の妨げとなる。

EPISODE.3 「ひとりぽっちの誕生日」


彼女は常に外に存在する方が都合がいい、何かあった時の面倒はない、友達も厳禁だ、特に社内には必要ない。深くにも心を許して、足元を救われる可能性があるからだ。社内にあっても、一緒に遊んだ時間が惜しいだけだ。出(しゅっせ)世(よ)して、社会的地位を築(きず)きあげる、それだけが僕の望みだ。他には何も要らない。その為に必要なものだけがほしいのだ。
03 彼女の呼び出し
「おはようございます!」
朝の挨拶も元気な方がいい。その方が上司に受けがいいからだ。今朝もスマートに決めてやる、何だって今日は大仕事があるからな。準備も昨日の内に完璧に済ませてある。午後3時に先方のオフィスに出向けばそれですべて片付く。契約が済んだら、夜は祝賀会(しゅくがかい)だ。部長達が労(ねぎら)ってくれる予定だ。午前中に彼女から携帯に電話があった。
「またか、忙しいと言ってあるのに。」
電話に出た僕に、彼女はどうしても今日中に会いたいという。夜はだめだ、主役の僕が祝賀会を抜けるわけにはいかない。どうせ傲然(ごうぜん)になるに決まっている。今日は無理だと説明しても、彼女は急用だからどうしてもという。電話を切ろうとしたら、泣き出した。
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