徳政じゃ
むかしむかし、京の町に、大きな宿(やど)屋がありました。
いつも旅の人が大勢泊まっていて、とても賑やかでした。
ところでこの宿屋の亭主は、いったいどこで耳に入れたのか、近いうちに徳政令(とくせいれい→借金を帳消しにするおふれ)のある事がわかったので、心の中でニヤリと笑いました。
(こいつで、たんまりと儲けてやろう)
亭主は、一部屋一部屋回り歩いて、泊まり客の持ち物を見せてもらいました。
「ほう、このわきざし(→刀)は、けっこうなお品で。じっくりと拝見(はいけん)いたしとうございますが、しばらくお貸しくださるまいか」
「この大きな包は、何でござりましょう。ほほう、立派な反物(たんもの→着物の生地)がこんなにもドッサリ。実は、娘や女房に買うてやりたいと存じますので、ちょいと拝借を」
と、いう具合に、客の持ち物を次から次と借りていきました。
客たちは、亭主の企みなどは夢にも知りませんので、
「お役に立てば、お安い事」
「さあさあ、どうぞ」
と、気楽に何でも貸してくれました。