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【生肉/八月的灰姑娘棒球队官网小说】东云龙 本垒打的女王(7)

 再び、信号が点滅しはじめた。その光を受けて、彼の瞳が揺れているように見えた。ふっ、と諦めたようにため息をつくと、彼は顔をあげる。
「そうだな。いつまでも逃げてちゃだめだな。どうせ、逃げられないんだから」
 いくら足掻こうと野球から逃げられないのは、幸せな枷だと思いたい。逃げられないからこそ、進む道がはっきり見える。その呪いを信じて歩むだけでいい。それは少し恐ろしいことでもあるけれど、ありもしない逃げ道を探して遅れをとるよりずっといい。
「正直、まだ打ち足りない。でも、できれば次は試合中にかっとばしたいよ、観客席に向かってさ!」
 彼は両手の拳を重ねると、赤信号に向かって素振りをした。
「私も、今ある記録を塗り替えてやりたいわ。プロになって、自分の道を切り開くの」
 龍の鋭い目元に光が宿る。彼は穏やかに微笑むと、足元に落ちていたアヒルのぬいぐるみを拾い上げた。そしてぬいぐるみに向かってつぶやく。
「……契約先が決まらなくて、うじうじしてたんだけどさ……俺、独立リーグのテスト、受けるよ。だから、俺が試合に出る時は見に来てくれよな」
「もちろんよ」
 信号が青に変わった。龍は彼を追い抜かし、早足で道路へ踏み出した。白と黒の横断歩道を軽やかに渡る。横断歩道の白を踏むと、出塁ベースを思い出してつい嬉しくなってしまう。
 体の奥底には、バットに当たった打球の重さや振動、ベースの感触やグローブの革のにおいなんかが染み込んでいて、走り出すといつでも野球をしている時の興奮が血液の中に流れ出す。
 ずっと野球で生きていたい、と思った。
 どこまで行けるかまだわからない。だからこそ足を止めてはいけない。
 横断歩道を渡り終えて振り返る。大きなアヒルのぬいぐるみを抱えた彼は、ちょうど横断歩道の白を踏み越えていた。

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