【生肉/八月的灰姑娘棒球队官网小说】东云龙 本垒打的女王(5)
「うん! その時はよろしくね」
翼は再び、ベアマックス……とつぶやきながら去っていく。自分の存在より、そのベアマックスとやらの方が大事なのかと虫酸が走った。龍と翼は違う野球チームに入っていて、試合で何度も対決したことがある。男子に交じって硬式野球をする者同士で、互いに目立つ存在だった。
「……君にはいいライバルがいるんだな」
少し離れた場所から二人のやりとりを見ていた彼は、目を細めながら翼の背中を見送った。
「……ライバルとは言い難いわね。あの子は、私の名前すら覚えてないようだから」
険しい顔をしている龍を見て、彼が小さく吹き出す。笑わないでくれる? と静かな怒りをあらわにする龍から逃げるように、入り口のドアを開けた。
そのバッティングセンターはあちこちに風船が飾られ、一昔前のJ-popが流れている。
「華やかな場所ね。初めて来るわ……」
圧倒されている龍を導くように、彼が先頭をきって歩く。
「ここはホームラン打ったら結構豪華な景品がもらえるんだ。ホームラン二〇本打ったら遊園地のペアチケットだって。何か欲しいものある?」
壁に「ホームランの景品一覧」が貼り出されていた。ホームランを一本打てば、タオル。二本ならベアマックス。三本ならゲームセンターで使えるメダル……と、本数に応じてもらえる景品が豪華になっていくらしい。翼が言っていた「ベアマックス」を目の前にした龍は首をかしげた。それは今までに見たこともなければ聞いたこともない、不恰好なクマだった。翼がなぜこんなものを欲しがるのかわからない。けれど、とりあえずホームランを二本以上打つまでは帰らないと決めた。
「そうね……景品にはそこまで興味がないわ」
「そっ、そんな、俺のプレゼント計画が……」
彼は頭を抱えてうなだれたけれど、すぐに立ち上がり前歯を見せて笑った。
「じゃあ、ここにある中で一番豪華な景品取ってやるよ!」
◇
そのバッティングセンターから出る頃には、すっかり日が暮れていた。バス停を目指して西日に照らされる道を歩く。
「あー、打った打った。この、ホームランの感触がたまらないんだよなぁ。家帰ったらしっかりストレッチしないと!」
そう言って、首や肩を軽く回す。これでもかとホームランを打ち上げた龍は、巨大なアヒルのぬいぐるみを抱きかかえていた。
「これ、あげるわ」
龍はアヒルのぬいぐるみを彼の背に押し付ける。
「普通逆だろ!」
「ぬいぐるみは女の子だけのものじゃないのよ」
「そうかもしれないけど、今日は俺が君に何かお返しをあげる計画でーっ!」
「それにこのアヒル、なんだか貴方に似てるから」