【生肉】狂父 VG文库版 #序章(5)

「はい、お父さん」
父が立ち上がり、実験室へ戻って行く。扉が閉まるのを見届けてから、アヤも踵きびすを返した。軽い足取りで通路を歩き出す。
その途中。
「い、いやだ!! やめてくれ!!」
切迫した男の叫び声。続いて、低く唸うなるような何かの機械の駆動音が聞こえてきた。アヤは思わず立ち止まる。声と音は、父のいる実験室からのものだった。
だが、この声は父ではない。
「いやだ、助けて!! やめてくれえええあああああああ────…………」
悲痛な絶叫が聞こえたかと思うと駆動音が一際大きくなり、それっきり男の声はしなくなった。
「──っ！」

アヤは耳を塞ふさいで駆け出した。
何も知らない、聞いていないとばかりに。
振り返ることも、立ち止まることもなく。