【生肉】狂父 VG文库版 #序章(3)

「お父さん！」
待ち望んだ相手に、アヤは表情を輝かせる。
しかし父は、アヤとは対照的に困ったような笑みを浮かべていた。
「こんな夜遅くにどうしたんだい、アヤ？ ここには来てはいけないと、いつも言っているだろう」
「あ、あの……ごめんなさい……でも……ひとりで眠るのが、こわくて……」
諭さとすように言われ、アヤは俯うつむいてしまった。大好きな父を困らせてしまっていると思うと、言葉が萎む。
やはり我慢してでも一人で眠るべきだったと、アヤは後悔した。
──いや、我慢しようと思っても無理だったから父に会いに来たのだ。今日だけはどうしても一人では眠れない理由が──父と一緒でないと寂しさで押し潰されそうになる理由があったから……。

「…………っ」
もう一度しっかりお願いしようと、アヤは顔を上げた。
と、同時──父の大きな手が、アヤの頭を撫でた。
「アヤ……母さんのことが恋しいんだね」
父は、柔らかい笑みを浮かべていた。
「明日は母さんが病気で亡くなってからちょうど一年……思い出すなというほうが無理な話か。アヤは母さんのことが大好きだったもんな」
「うん……」
小さく頷うなずくアヤに、父は言葉を続ける。
「でも、アヤは独りじゃない。アヤのそばにはいつだって母さんがついてるんだ。母さんはずっと僕らのことを見守ってくれている。だから、安心して眠りなさい」