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【村上春树】4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて(2)

2023-11-21村上春树短篇小说 来源:百合文库
僕が今思い出せるのは、彼女はたいして美人じゃなかったということだけである。なんだか不思議なものだ。
「昨日100パーセントの女の子と道ですれ違ったんだ」と僕は誰かに言う。「ふうん」と彼は答える。「美人だったのかい?」 「いや、そんなわけじゃないんだ」「じゃあ好みのタイプだったんだな」「それが思い出せないんだ。目がどんな形をしていたかとか、胸が大きいか小さいかとか、まるで何も覚えていないんだよ」「変なものだな」「変なものだよ」「それで」と彼は退屈そうに言った。「何かしたのかい、声をかけるとか、あとをついていくとかさ」「何もしない」と僕は言った。「ただすれ違っただけさ」
彼女は東から西へ、僕は西から東に向けて歩いていた。とても気持の良い四月の朝だ。たとえ一二十分でもいいから彼女と話をしてみたいと僕は思う。彼女の身の上を聞いてみたいし、僕の身の上を打ちあけてもみたい。そして何よりも、一九八一年の四月のある晴れた朝に、我々が原宿の裏通りですれ違うに至った運命の経緯のようなものを解き明かしてみたいと思う。きっとそこには平和な時代の古い機械のよう な温かい秘密が充ちているに違いない。我々はそんな話をしてからどこかで昼食をとり、ウディー.アレンの映画でも観て、ホテルのバーに寄ってカクテルか何かを飲む。うまくいけば、そのあとで彼女と寝ることになるかもしれない。可能性が僕の心のドアを叩く。僕と彼女のあいだの距離はもう十五メートルばかりに近づいて いる。さて、僕はいったいどんな風に彼女に話しかければいいのだろう? 「こんにちは。

【村上春树】4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて


ほんの三十分でいいんだけれど僕と話をしてく れませんか?」 馬鹿げてる。まるで保険の勧誘みたいだ。「すみません、このあたりに二十四時間営業のクリーニング屋はありますか?」これも馬鹿げてる。だいいち僕は洗濯物の袋さえ持ってはいないではないか。あるいは正直に切り出した方がいいのかもしれない。「こんにちは。あなたは僕にとって100パーセントの女の子なんですよ」 彼女はおそらくそんな科白を信じてはくれないだろう。それにもし信じてくれたとしても、彼女は僕と話なんかしたくないと思うかもしれない。あなたにとって私が100パーセントの女の子だとしても、私にとってあなたは100パーセントの男じゃないのよ、と彼女は 言うかもしれない。そういう事態に陥ったとしたら、きっと僕はおそろしく混乱してしまうに違いない。僕はもう三十二で、結局のところ年を取るというのはそういうことなのだ。
花屋の店先で、僕は彼女とすれ違う。温かい小さな空気の塊りが僕の肌に触れる。アスファルトの舗道には水が撒かれていて、あたりにはバラの花の匂いがする。僕は彼女に声をかけることもできない。彼女は白いセーターを着て、まだ切手の貼られていない白い角封筒を右手に持っている。彼女は誰かに手紙を書いたのだ。彼女はひどく眠そうな目をしていたから、あるいは一晩かけてそれを書き上げたのかもしれない。そしてその角封筒の中には彼女についての秘密の全てが収まっているのかもしれない。何歩か歩いてから振り返った時、彼女の姿は既に人混みの中に消えていた。
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