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左甚五郎(ひだりじんごろう)の竜(2)

2023-08-01日语睡前故事20210319 来源:百合文库
 わかりました。
 未熟者ですが、やってみましょう」
 しかし引き受けたのは良いのですが、左甚五郎には竜がどんな姿なのかわかりません。
 他人が描いたり彫ったりした竜の絵や彫り物は、今までに何度も見た事があるのですが、しかしそれはその人が考えた竜の姿で、本物の竜ではありません。
「他人が作った物の真似事では、それに魂が宿る事はない」
 そこで甚五郎は成相寺の本堂にこもり、仏さまに熱心にお祈りをしました。
「仏さまのお導きにより、竜の彫り物を彫る事になりましたが、わたしは竜を見た事がありません。
 名人と言われていますが、いくらわたしでも見た事もない物を彫る事は出来ません。
 お願いです。どうぞ、竜の姿を拝ませて下さい」
 そして数日後、甚五郎の夢枕に仏さまが現われて、こう言ったのです。
「甚五郎よ。
 そなたの願いを叶えてやろう。
 この寺の北の方角に深い渕(ふち)がある。
 その渕で祈れば、きっと竜が現れるはずじゃ」
「はっ、ありがとうございました!」

左甚五郎(ひだりじんごろう)の竜


 さっそく甚五郎は案内人の男と二人で、世屋川(せやがわ)にそって北の方へ進んで行きました。
 しかし奥へ進むにつれて人の歩ける道はなくなり、とうとう案内人は怖がって帰ってしまい、甚五郎は一人ぼっちで奥へと進んだのです。
 険しい道でしたが、竜を見たいという甚五郎の心には、恐さも疲れも感じませんでした。
 そしてついに甚五郎は、竜が現れるという、大きな渕にたどり着く事が出来たのです。
甚五郎は岩の上に正座をすると、そのまま三日三晩、一心に祈り続けました。
(この渕に住む竜よ。一目でよい、一目でよいから、その姿を見せてくれ)
 すると、どうでしょう。
 急にあたりが暗くなったかと思うと、大粒の雨がバラバラと降り始め、渕の奥から大きな竜が姿を現わしたではありませんか。
 竜は口からまっ赤な火を吐きながら、今にも甚五郎に襲いかかろうとしました。
 しかし、甚五郎は逃げません。
 その竜の姿をまぶたに焼き付けようと、まばたきもせずにその竜を見つめました。
 そして竜は真っ直ぐ甚五郎に向かって来て、身動き一つしない甚五郎にぶつかる直前に、すーっと消えました。

左甚五郎(ひだりじんごろう)の竜


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