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金色之死 (谷崎润一郎) 上(3)

2023-06-27 来源:百合文库

金色之死 (谷崎润一郎) 上


その頃日本の文壇にはモオパッサンの作物が持て囃された時代でしたが、私共が覚束ない飜訳を便りにして通がって居る際に、彼はもう原文ですら/\と読み下す事が出来ました。
「君、ふらんす語のモオパッサンはこんなに綺麗なものだよ。」
と云って、彼は或る時 Surシュウル L'eauロオ の初めの方を一ページばかり読んで聞かせた事があります。ふらんす語に就いて何等の知識も持たなかった私の耳にも、成る程それは世にも美しい文章の如く感ぜられました。このような美しい国語を知って居る岡村君が、此頃俄に日本の文学を疎うとんじ出したのは無理のない事だと思いました。今になって考えて見れば、私は彼の朗読に依って、初めて外国語に対する趣味と理解力とを涵養かんようせられたのに違いありません。
語学は兎に角として、不思議なのは彼の機械体操が好きな事でした。ベースボール、テニス、ボート、柔道、………一と通りの運動には大概手を出しましたが、彼の最も得意とするのは機械体操だったのです。学校の運動場うんどうばで、彼が書物を読んで居なければ必ず鉄棒かなぼうか並行棒にしなやかな体をからませて遊んで居るのです。子供の時分に小柄であった彼の肉体は、十三四の歳からめき/\と発達して来て、筋骨の逞ましい、身の丈の高い、優雅と壮健とを兼ね備えた青年になって居ました。彼の髪の毛は鬘を冠ったように黒く、彼の肌膚はいつも真白で日に焼けると云う事を知りませんでした。彼のスラリとした精悍せいかんな手足は、一見して身軽みがるな運動に適して居る事を想わせました。彼は学校から帰って来ても、屡々自分の家の後庭こうていに設けられた機械体操場にやって来て、一時間も二時間も独りで遊び興じながら、倒立さかだちをしたり、宙返りを打ったり、殆ど倦む事を知りませんでした。

金色之死 (谷崎润一郎) 上


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