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父と追憶の誰かに(原文)(5)

「ふゆ、お願いだからホントに女が来て泣き崩れるのだけはやめてね」
「幼馴染をどういう風に見てんだ」
「父が浮気してないことを確認して安心したいだけのファザコン」
 くだらないあんずのたわごとを無視して、私はじっとお父さんを観察する。どことなく顔がにやけているように見えてきて、私やお母さんをだましている事実とセットで殺意が湧いてきた。
「どういう奴だろ」
 なんとなく私が呟いただけなのに、あんずは特に熟考した様子もなく嫌なことを思いつく天才みたいなことを言った。
「ふゆのお母さんの若いころに似てたら最悪だね」
「殺すよ」
「親を殺すとか言っちゃだめだよ」

父と追憶の誰かに(原文)


「あんたを」
「私かい」
 戯言とは分っていても、そんなことがあったとして果たして自分は受け止められるだろうか、そんなことをファザコンじゃないけど考えていると、どうやらそうではないということが、やがて分かり、ひとまずはほっとした。
 しかし。
「若っか」
 私より先にあんずが言った。地味を固めたおじさんの元にやってきたのは、私達の年齢から五歳も離れていないだろう、女の子だった。私は、思わず息をのむ。
「……あんず、ちらちらこっち見なくても泣かないから」
 今は驚きの方が大きい。いや、ショックもあるとかじゃないけどっ。まさかあんな若い子が来るとは思わなかった。

父と追憶の誰かに(原文)


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