百合文库
首页 > 网文

遺言 大杉栄(3)

2023-11-29 来源:百合文库

遺言
大杉栄


『私への直接の遺言ではないんですがね。とにかく兄貴が或る人を介して私に伝へた、まあ遺言とも云ふべきものが、たつた一つあるんです。しかも、それが大ぶ変つた遺言だから面白いんです。日本のやうな国では、何にか少し人間らしい事をしようと思へば、どうしても牢にはいらなくちやならね。だからお前も其のつもりでうんと勉強をしろ。と云ふんですよ。ところが、どうも、此の遺言はなか/\果せさうもないんで……』
馬場君が笑ひながら話した此の言葉が今ふいと僕の頭に浮んだ。
『さうだ。此の事を話ししよう。』
 僕は思ひがけないいい話の材料を捉へたので、話の順序の腹案をしに中庭へぶらつきに出た。
 斯うして僕がそとへ出てゐる間に、生田君の話も済み、有島生馬君の誰れだつたかの西洋の画家の話も済み、馬場君の近代社会文芸に就いての話も済んだ。そしてあと一人で、いよ/\最後の僕の番になつた。
 其の間に僕はちよつと委員室にはいつてお茶を飲んで休んでゐた。すると、一人の委員があはただしく室の中へ駆けこんで来た。
『おい、また警察から電話だよ。今日の演説会の責任者に出てくれとさ。』

遺言
大杉栄


猜你喜欢