蝶は聖夜に羽ばたく（四）(78)

「……殺やれるさ」
千葉さんが、苛立いらだったように反論した。
「そうだろうか?……君は人間を殺す感覚の不快さを知っているのか?本当に?そのパットで、この女が死ぬ程強く、何発も殴れるのか?何処を殴る?私達も殺すのか?目撃者だぞ。三人だ。男を入れれば四人——そんなバット一本で?血と脂肪で滑って、すぐに殴れなくなるだろう。骨の折れる感触、血と臓物の臭い……君に本当に耐えられるのか?」

ゆっくりと、耳をねぶるような櫻子さんの声。
ごくん、と千葉さんが唾液だえきを嚥えん下げした。
「いいかい?人間という生き物は、人間の死体が大嫌いなんだよ。倫理なんてものの話をしている訳ではないよ。もっと本能的な話だ。人間はね、人間の死体がとにかく恐ろしくて、気持ちが悪いものなんだよ。それでも殺すのか?君はまだ若い。残りの人生、そのおぞましい感触を思い出し、恐れて生きるのか?人生を終わらせたつもりでも、人間はなかなか死なない。耐えられるのか?本当に」