よくわかる説教
むかしむかし、ある坊さんが町の集まりに出かけては、人々に為になる話をしていたのですが、聞いているみんなは無駄口(むだぐち→おしゃべり)ばかりで、なかなか熱心には聞いてくれません。
何とか話をちゃんと聞かせたいと考えた坊さんは、次の説教(せっきょう)の日、みんなに向かってこう言いました。
「これから私がみなさんに何をお話しするか、わかりますか?」
するとみんなは、
「さあ、わからねえなあ」
と、口をそろえて言います。
「そうか、わからぬか。わからぬ話をしても仕方がないから、今日は止めにしよう」
こう言って坊さんは、さっさと帰ってしまいました。
また次の説教の日、坊さんが前と同じ事を聞くと、みんなは帰られては困ると思い、
「はい、よくわかりました」
と、言いました。
ところが坊さんは、
「ほお、わかっておるのか。それは大した物だ。しかしそれなら、話をしても仕方ない。今日はこれまで」
と、またまた帰ってしまいました。