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『女生徒』太宰治.1939 #2(8)

2023-08-20日语文学太宰治短篇小说女生徒 来源:百合文库
 お風呂がわいた。お風呂場に電燈をつけて、着物を脱ぎ、窓を一ぱいに開け放してから、ひっそりお風呂にひたる。珊瑚樹の青い葉が窓から覗いていて、一枚一枚の葉が、電燈の光を受けて、強く輝いている。空には星がキラキラ。なんど見直しても、キラキラ。仰向いたまま、うっとりしていると、自分のからだのほの白さが、わざと見ないのだが、それでも、ぼんやり感じられ、視野のどこかに、ちゃんとはいっている。なお、黙っていると、小さい時の白さと違うように思われて来る。いたたまらない。肉体が、自分の気持と関係なく、ひとりでに成長して行くのが、たまらなく、困惑する。めきめきと、おとなになってしまう自分を、どうすることもできなく、悲しい。なりゆきにまかせて、じっとして、自分の大人になって行くのを見ているより仕方がないのだろうか。
いつまでも、お人形みたいなからだでいたい。お湯をじゃぶじゃぶ掻きまわして、子供の振りをしてみても、なんとなく気が重い。これからさき、生きてゆく理由が無いような気がして来て、くるしくなる。庭の向こうの原っぱで、おねえちゃん! と、半分泣きかけて呼ぶ他所(よそ)の子供の声に、はっと胸を突かれた。私を呼んでいるのではないけれども、いまのあの子に泣きながら慕われているその「おねえちゃん」を羨しく思うのだ。私にだって、あんなに慕って甘えてくれる弟が、ひとりでもあったなら、私は、こんなに一日一日、みっともなく、まごついて生きてはいない。生きることに、ずいぶん張り合いも出て来るだろうし、一生涯を弟に捧げて、つくそうという覚悟だって、できるのだ。ほんとうに、どんなつらいことでも、堪えてみせる。ひとり力んで、それから、つくづく自分を可哀想に思った。

『女生徒』太宰治.1939 #2


風呂からあがって、なんだか今夜は、星が気にかかって、庭に出てみる。星が、降るようだ。ああ、もう夏が近い。蛙があちこちで鳴いている。麦が、ざわざわいっている。何回、振り仰いでみても、星がたくさん光っている。去年のこと、いや去年じゃない、もう、おととしになってしまった。私が散歩に行きたいと無理言っていると、お父さん、病気だったのに、一緒に散歩に出て下さった。いつも若かったお父さん。ドイツ語の「おまえ百まで、わしゃ九十九まで」という意味とやらの小唄を教えて下さったり、星のお話をしたり、即興の詩を作ってみせたり、ステッキついて、唾をピュッピュッ出し出し、あのパチクリをやりながら一緒に歩いて下さった、よいお父さん。黙って星を仰いでいると、お父さんのこと、はっきり思い出す。あれから、一年、二年経って、私は、だんだんいけない娘になってしまった。
ひとりきりの秘密を、たくさんたくさん持つようになりました。
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