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二月の桜(2)

2023-08-02 来源:百合文库
「おじいさん、待っていろよ」
 若者はじっとしていられずに、外へ飛び出しました。
 そして冷い北風の中を走って、桜の木の下に行きました。
 今日は特別に寒い日で、桜の木も凍える様に細い枝先を震わせています。
 若者は桜に手を合わせると、頼みました。
「桜の木よ。どうか、お願いです。花を咲かせて下さい。おじいさんが死にそうなんです。おじいさんが生きている間に、もう一度花を見せてやりたいんです」
 若者は何度も何度も祈り続けて、夜が来ても木の下を動こうとはしませんでした。
やがて夜が明けて、朝が来ました。
 桜の木の下で祈り続けていた若者は、あまりの寒さで気を失っていましたが、急に暖かさを感じて目を覚ましました。
「どうして、こんなに暖かいんだ? それに、甘い花の香りがするぞ」
 若者はゆっくりと顔をあげて、桜の木を見あげました。
「あっ!」
 何と不思議な事に、桜の木には枝いっぱいに花が咲いていたのです。
 二月のこんなに寒い日に、しかもたった一晩で咲いたのです。

二月の桜


「ありがとうございます!」
 若者は桜の木に礼を言うと、おじいさんの待つ家へ走って帰りました。
「おじいさん! おじいさん! 私がおんぶするから、一緒に来て下さい」
「何じゃ? どうしたんじゃ?」
「いいから、出かけますよ」
 若者はおじいさんを背負うと、桜谷へと向かいました。
 やがて、桜の木がだんだん近づいて来ると、
「おおっ・・・」
 おじいさんは驚いて言葉も出せずに、ただ涙をぽろぽろとこぼしました。
「よかったですね。おじいさん」
 桜の花は朝日を浴びて、キラキラと光り輝いています。
「これほど見事な桜の花を、わしは今まで見た事がない。わしは、本当に幸せ者じゃ」
 そうつぶやくおじいさんに、若者も涙をこぼしながら頷きました。
それから間もなく、おじいさんは亡くなりましたが、それからも桜谷のこの桜の木は、毎年二月十六日になると見事な花を咲かせたそうです。
おしまい


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