二月の桜
むかしむかし、桜谷というところに、おじいさんが孫の若者と一緒に住んでいました。
この桜谷には、むかしから大きな桜の木があります。
おじいさんは子どもの頃から桜の木と友だちで、春が来て満開の花を咲かせると、おじいさんは畑仕事もしないで桜をうっとりとながめていました。
そして花びらが散ると、おじいさんはその花びらを一枚一枚集めて木の下に埋めました。
「桜や。今年も楽しませてくれて、ありがとうよ」
さて、そのおじいさんもやがて年を取り、とうとう動けなくなりました。
二月のある寒い日、おじいさんは北風の音を聞きながら、ぽつんと若者に言いました。
「わしは今まで生きてきて、本当に幸せじゃった。だが、死ぬ前にもう一度、あの桜の花を見たいものじゃ」
「そんな事を言ったって、今は二月だ。いくら何でも・・・」
若者はそう言いかけて、口をつぐみました。
おじいさんが目をつむり、涙をこぼしているのです。
きっと、桜の花の姿を思い浮かべているのでしょう。