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錦絵から出て来た女の人(2)

2023-08-01日语睡前故事20210312 来源:百合文库
「はて? 誰がしてくれたんだろう?」
 息子は不思議に思いながらも食事を食べると、いつもの様に壁のにしき絵に語りかけました。
「お前は、いつ見てもきれいだな。
 今日な、誰がやったかは知らないが、家の中がきれいに掃除されていて、おまけにおいしい晩飯が用意されていたんだ。
 きれいな家でおいしい晩飯を食べると、まるでお前と夫婦になった様な気分だ。
 こんな事が、毎日毎日続くといいな」
 息子はそう言って、満足そうに寝ました。
それから次の日も、その次の日も、不思議な事に息子が仕事を終えて家に帰って来ると、家の中がきれいに掃除されていて、ご飯の仕度が出来ているのです。
(これは、どういう事だろう? まさか村の娘の誰かが、やってくれているのだろうか?)
次の日、気になった息子は仕事に行くふりをして家を出ると、すぐに戻って家の二階に隠れました。
お昼頃、息子がふと気がつくと、家の中にはいつの間にか一人の美しい女の人がいて、家の中を掃除したり、囲炉裏の鍋に湯をわかしたりしていたのです。

錦絵から出て来た女の人


 びっくりした息子は、思わず二階から声をかけました。
「あの、あなたさまは、どこのどなたですか?」
「きゃあっ!」
 突然声をかけられてびっくりした女の人は、足を滑らせて火をたいている囲炉裏の上に倒れてしまいました。
「あっ、あぶねえ!」
 息子はあわてて二階から飛び降りましたが、女の人は囲炉裏の火に包まれたかと思うと、一瞬のうちに消えてしまいました。
「どういう事だ? それにあの女、どこかで見た顔だったが」
 息子が首を傾げて何げなく壁を見てみると、壁にはってある錦絵の女の人のところだけが、真っ白になっていたのです。
「これは! ・・・そうか、そうだったのか」
 なんと錦絵に描かれた女の人が、お嫁のいない息子をふびんに思って絵から抜け出していたのでした。
それから息子は何年も何年も錦絵の女の人が現れるのを待ちましたが、錦絵の女の人は二度と現れず、錦絵は白いままでした。
おしまい


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