大きな運と小さな運(3)
「ああ、輪がえというのは、つまらん仕事じゃあ」
そんなある日、隣村まで足をのばした吾作は、長者屋敷の前で呼び止められました。
「輪がえ屋さん、おけの輪がえをお願いします」
お手伝いの娘が、こわれたおけを持って屋敷から出て来ました。
「へい、ありがとうございます」
吾作は輪がえをしながら、お手伝いの娘にたずねました。
「ずいぶんと、使い込んだおけですね。しかし長者さまなら輪がえなんぞしないで、新しいおけを買った方がはやいんじゃないですか?」
「はい。以前はそうでしたが、新しい若奥さまが来られてから、使える物は直して使う様になったんです。でもそのおかげで、若奥さまが来られてから屋敷がずいぶんと大きくなりましたよ」
「へえー、そんなものですかね。わたしはどうも、けちくさいのが苦手で」
するとそこへ長者の若奥さまが通りかかり、輪がえをしている吾作を見てなつかしそうに言いました。
「あれぇ、あんた、吾作さんやないの? ほら、あたしよ。小さい頃によく遊んだ、隣の」
吾作は若奥さまの顔を見て、びっくりしました。
「ありゃあ! お紗希ちゃんでねえか。こ、ここの、奥さまになられたのでござりまするか?」
「ええ。あとでにぎり飯をつくってあげるから、待っとって」
お紗希は台所に行くと、さっそくにぎり飯をつくりました。
そして長者の嫁になった自分の幸せを吾作にも分けてあげたいと思い、にぎり飯の中に小判を一枚ずつ入れたのです。
この小判は、お紗希が何年もかかってためた物でした。
輪がえを終えた吾作は、川岸へ行ってお紗希からもらったにぎり飯を食べる事にしました。
「ほう、こりゃうまそうじゃ。さすがは、長者さま。飯のつやが違うわい」
そしてにぎり飯を口に入れると、
力チン!
と、歯にかたい物があたりました。
「ペッ! なんや、えらい大きな石が入っとるぞ」
吾作はにぎり飯を川の中に吐き出すと、二つ目のにぎり飯を口に入れました。