「俺は、本物が欲しい」
「俺は……」
言い直しても、先の言葉は見つからない。
俺は、何を言うべきなのだろうか。既に言いたいと、そう思って考えてきたことは言い終えてしまった。問い直して、一から積み上げる。そのための言葉を考えてきたはずなのだ。本当に何も残ってない。万策尽きた。
──ああ、そうか。結局俺が言おうとしていることなんて、どこまでいっても、どんなに考えても、思考や論理でしかなくて、計算であって手段であって、策謀でしかない。
なのに、考えても全然理解なんかできないのに、それでもまだ何か言うべきことを、言いたいことを探している。言ったって、わかったりしないのに。言うだけ無駄なのに。
俺は言葉が欲しいんじゃない。俺が欲しかったものは、確かにあった。
それはきっと、分かり合いたいとか、仲良くしたいとか、話したいとか、一緒にいたいとかそういうことじゃない。俺はわかってもらいたいんじゃない。自分が理解されないことは知っているし、理解してほしいとも思わない。俺が求めているのはもっと過酷で残酷なものだ。俺はわかりたいのだ。わかりたい。知っていたい。知って安心したい。安らぎを得ていたい。わからないことはひどく怖いことだから。完全に理解したいだなんて、ひどく独善的で、独裁的で、傲慢な願いだ。本当に浅ましくておぞましい。そんな願望を抱いている自分が気持ち悪くて仕方がない。