笛の名人
むかしむかし、京の都に、源博雅(みなもとのひろまさ)という、とても笛の上手な人がいました。
その頃、都では集団の泥棒がいて、人々は大変困っていました。
ある晩の事、博雅(ひろまさ)の屋敷にも集団の泥棒が押し入りました。
泥棒たちは手に手に、弓や、なぎなたを持っています。
「みんな、すぐに隠れるんだ! 見つかっても決して抵抗はするな!」
博雅の言葉に、召し使いたちはみんな思い思いのところへ逃げたり隠れたりしました。
博雅も縁の下に隠れて、ジッと息を潜めました。
やがて泥棒たちは、品物やお金を取って出て行きました。
博雅は縁の下からはい出すと、
「行ってしまったらしい。みんな、出てきても大丈夫だ」
と、召し使いたちに声をかけました。
さいわいみんなは無事で、怪我人もいません。
「なにより無事で良かった。・・・しかし、よく取って行ったものだ。壊れたなべのふたまでないではないか」
博雅があきれながら座敷の中を調べてみると、さいわい置き戸棚が一つ残されていました。
「どうせ、中の物は持って行ってしまったのだろう」
それでも開けてみると、中には博雅が愛用している笛が一本入っていました。
「これはありがたい。良い物を残してくれた」
博雅は笛を取ってそこに座ると、静かに笛を吹き始めました。