夜桜街道
永き有限の時の 陰に見ゆおぼろ月,春の来ない桜よ 今、幽雅に咲かせ,欲深き霊魂の 色めき騒ぐ夜に,瞬き蒼し月の光が 誘う黒鳳蝶,めくるめく心宿りし 命つなぐ篝火に,今は唯夢在りし 空の杯 掲げて,深き幽玄の時よ 咲き乱れ花見酒,ひらり彩舞う 忘れし日の記憶,一人戸外降り立ち 仰ぎ見る佐保姫,社に咲く木々のさざめく 美しき春息吹,慈しみ憐れ生き行く 虚ろなる虚言の世と,終焉の知らぬ夢を 空の身体に 重ねて,うら深し幽玄の時よ 淡き黒に染め上げ,死して尚散り敷く 儚し花吹雪,永き有限の花の 陰に見ゆおぼろ月,廻る時の褥に 幽し夢を見る,死してなお楚々と芽吹く,散ればこそ美しき春の来ない桜よ,今、幽雅に咲かせ。